「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
第61回
信用保証以外の調達策「マル経融資」を活用する
本年(平成30年)4月から実施された信用保証制度の見直しにおいて、成長段階にある企業に対して金融機関と信用保証協会が連携することとされました。但し、その方法について両者のコンセンサスが得られているとは言い難い状況なので、過渡期的に中小企業にとって借入しにくい状況が発生する可能性があります。このため、中小企業から積極的に情報開示すること、特に経営改善に取組む計画書を提出することを、これまでご提案してきたところです。
一方で、成長段階にある訳ではない、例えば「街の商店街で長年にわたって夫婦で切り盛りしている商店」などの小規模事業者については金融機関と信用保証協会の連携は求められておらず、従前通り(保証枠などは拡大もある)とされています。民間金融機関が「この企業はプロパーでは対応しにくい。信用保証のサポートが欲しい」と判断したら、信用保証協会は今まで通り支援すると思われます。
「では、小規模事業者は安泰なのだな。」原則、その考え方で結構でしょう。但し信用保証が過度期にある、変化の時代にあることは念頭に入れておくべきです。小規模事業者への姿勢に変化はなくとも、成長期企業への審査が忙しくなった煽りで事務が停滞するかもしれません。審査に今までより時間がかかる等の影響が出る可能性があります。
事業計画書を提出する
金融機関が中小企業向け融資の審査時に問題になるのが「情報の非対称性」です。「情報の非対称性」とは難しい言葉ですが、ここでは「中小企業向け融資において、判断に必要な情報を、金融機関が十分に情報を入手できない」という意味だと思って下さい。大企業、特に上場企業は、法令に基づく決算書を公開しているのはもちろん、投資意欲を増すために事業の現状や将来に向けての計画・展望等を記載した事業計画など、企業によっては膨大な情報を提供しており、金融機関はこれら情報を参照して融資可否を判断できます(それ以上の情報提供を求める場合もあるでしょう)。一方で、中小企業の場合には、これほどの情報を開示していることは少なく、このため金融機関・保証協会は、融資・保証審査が難しいと感じる場合があるのです。
このように考えると、小規模事業者でも行える自衛策を理解できます。「金融機関・信用保証協会からの返事が遅い」などの現象が生じた場合、それは情報の非対称性が原因であると考えられるので、積極的に情報を開示するのです。現況や今後の計画を明らかにした「事業計画書」により我が社をしっかりと説明することは、小規模事業者にとっても有効な策だと考えられます。
マル経融資を選択肢に入れる
「計画書を作れと言われてもね。どんな計画書を作れば良いのか分からないよ。そもそも我が社は地元に長く根付いた企業だからね。特に計画書を作って画期的な取組みを行うなんてこと、ないな。」そう感じる社長さんも多いことでしょう。「小規模で地元に根付いた企業だから、戦略的取組みはできない」とお考えになる必要はないと思いますが、自力で計画書を策定するのは難しいとのお気持ちはお察しします。「そうなんだ。だから、自分たちに打てる手はないのではないか。」そう結論する必要はありません。第三者の協力を得て自社を見つめ直し、事業改善への道筋を付けながら融資を受けるという方法があります。
中小企業を支援する第三者から協力を得て、自社を見つめ直し、事業改善への道筋を付けながら融資を受けるという代表的手法として「小規模事業者経営改善資金融資制度(マル経融資)」があります(以下は概要です)
<紹介URL:東京商工会議所>
https://www.tokyo-cci.or.jp/marukei/
<企業の要件>
・ 小規模事業者(従業員が20人(商業またはサービス業は5人)以下の法人・個人事業主)
・ 最近1年以上、商工会議所・商工会地区内で事業を行う
・ 商工会議所・商工会の経営・金融に関する指導を原則6ヵ月以上受けており、事業改善に取り組んでいる
<融資の条件>
・ 限度額:2,000万円
・ 返済期間:運転資金7年以内(据置期間 1年以内)
設備資金10年以内(据置期間 2年以内)
・ 担保・保証人 不要(保証協会の保証も不要)
・ 利率:日本政策金融公庫が定める利率
第三者と相談する重要性
マル経融資をお勧めすると、多くの社長さんが「経営指導員と相談するのは面倒臭い」と言われます。確かに、とても忙しい中小企業の社長さんにとって、日程を調整して人に会うのは大変なことでしょう。また、決算書を見ながら意見を言われるのも、時にはとても辛いことです。
一方で、第三者との相談は、経営にとってとても重要な、血路を拓く打開策になる可能性があります。経営相談員は、商工会議所や前職の地域金融機関などで長らく、数多くの中小企業と向き合い、支援した人が中心です。「多くの」がポイントで、あなたの会社の事情を知って「過去に似た企業を支援した。その企業は○○○して立ち直ったな」などの経験を思い出し、教えてくれる可能性があるということです。多くの経営者が「そのような知恵が、我が社を立て直すきっかけとなった。あれは今考えると我が社にとって、とても有意義な半年間だった」と感想を述べています。
保証制度見直しで「借入が少し面倒臭くなる」可能性があり、その理由の一つは「制度変更の過度的な現象」ですが、もう一つは「経営者に自社の経営にもっと向き合ってもらいたいとの意図で制度改正が行われたから」が挙げられます。前者に備え、後者に積極的に応じるのは、企業の活性化に繋がるでしょう。マル経融資は、そのきっかけに最適な制度です。是非、活用を検討してください。
<本コラムの印刷版を用意しています>
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙1枚のボリュームなのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達できる企業になるための方法をしっかりと学んでみてください。
コラム「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
- 第1回 新年を迎えるにあたって一年の計画
- 第2回 今起きている中小企業金融の変化、そして求められている対応の変化
- 第3回 中小企業金融政策の転換理由とは?
- 第4回 金融と経営支援の一体的な推進
- 第5回 借入したかったら経営改善に努力するというスタンス
- 第6回 金融庁森信親長官インタビューから
- 第7回 事業計画書で経営改善の意思を示す
- 第8回 事業計画を作成して資金調達に成功した例
- 第9回 金融機関の特性に対応した行動を取る(日頃の行動編)
- 第10回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(前編)
- 第11回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(後編)
- 第12回 金融機関の特性に対応した行動を取る(コミュニケーション編)
- 第13回 今までは常識だったが、今は意味合いが薄れたアプローチ
- 第14回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(前編)
- 第15回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(中編)
- 第16回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(後編)
- 第17回 金融機関とのコミュニケーション
- 第18回 金融機関が質問する意図
- 第19回 金融機関からの質問に答える
- 第20回 金融機関に伝えたいことを伝える
- 第21回 どのタイミングで金融機関を訪れるか
- 第22回 経営力向上計画に取り組む
- 第23回 経営力向上計画策定をバネにする(上)
- 第24回 経営力向上計画をバネにする(下)
- 第25回 金融機関は経営者について何を見ているか?
- 第26回 IT導入補助金経営計画書を活用する
- 第27回 日頃のコミュニケーションで貸し剥がされない企業になる
- 第28回 金融機関を安心させるコミュニケーション
- 第29回 儲かる構図を作り上げる
- 第30回 専門家の助けを借りる
- 第31回 中小企業金融の行方
- 第32回 企業が伝えたいことと金融機関が知りたいこと
- 第33回 言葉遣いを気にしてみる
- 第34回 事業性評価融資を依頼する
- 第35回 事業性評価融資を依頼するための事業計画書
- 第36回 実際にご支援した事業計画書の例
- 第37回 計画策定のプロセス
- 第38回 金融機関に受け入れられなかった場合
- 第39回 金融機関の考えを知る
- 第40回 取引する金融機関を戦略的に検討する
- 第41回 金融機関の審査方法
- 第42回 「資金を調達すると同時に経営改善を目指す」セミナー(お知らせもあります)
- 第43回 年末資金調達の準備を始める
- 第44回 残念な事業計画書
- 第45回 金融機関が事業性評価融資を提案する場合
- 第46回 戦略とマネジメント
- 第47回 補助金活用で経営改善の姿勢を見せる
- 第48回 超特急で事業性評価融資を依頼する
- 第49回 信用保証はどこへ向かうのか?
- 第50回 金融機関とのコミュニケーションを深める
- 第51回 「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」の教訓
- 第53回 金融機関に、中小企業に歩み寄ってもらう
- 第54回 メインバンクを持つべきか?
- 第55回 ものづくり補助金を活用する
- 第56回 信用保証制度見直しに対応する(1)
- 第57回 信用保証制度見直しに対応する(2)
- 第58回 信用保証制度見直しに対応する(3)
- 第59回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(1)
- 第60回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(2)
- 第61回 信用保証以外の調達策「マル経融資」を活用する
- 第62回 創業資金を調達する
- 第63回 資金繰りを計画する
- 第64回 「不況業種」と言われたら
- 第65回 いつものことを、同じでなくする
- 第66回 金融機関との付き合い方を考える
- 第67回 情報を隠すか、開示するか
- 第68回 コンサルティングをうまく活用する
- 第69回 年末の資金調達を考える
- 第70回 資金調達できる!日頃の行動を考える
- 第71回 事業性を上手く表現する
- 第72回 忘年会か、記年会か
- 第73回 金融検査マニュアル廃止時代に生きる
- 第74回 中小企業に求められる臨機応変
- 第75回 会社の不調は誰のせい?
- 第76回 「事業性評価」依頼が失敗した時
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。
企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。
「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。