「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
第56回
信用保証制度見直しに対応する(1)
昨年秋から予告されていた「中小企業信用保証制度見直し」が本年4月1日からスタートしました。昨年6月に成立した法案(「中小企業の経営の改善発達を促進するための中小企業信用保険法等の一部を改正する法律案」)が施行されたことによるものです。
<中小企業庁告知サイト>
http://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/shikinguri/hokan/index.htm
この見直しによる中小企業への影響は、多くの論者で意見が別れているようです。「今までと同じ、信用保証の拡大策だ。今までより広く、多くの中小企業が信用保証を活用できるようになる」と考えている人もいれば、「この改正は、多くの中小企業にとって大きな影響を及ぼすことになる」と考えている人もいます。筆者は後者に属していますが、必ずしも否定的に考えているわけではありません。この見直しの方向性をしっかりと受け止めて対応することで、中小企業は自らの企業体力を強化できるのではないかと考えています。これから3回にわたって連続して、このことについてご説明しようと思います。
見直しのあらまし
今回の見直しによる措置は2本柱で構成されています。第1の柱は「中小企業の多様な資金需要に対するきめ細かな対応」、第2の柱は「信用保証協会と金融機関とが連携した支援」です。様々な論者の意見が異なる理由については、前者に注目する論者は「今回の信用保証見直しは拡大策」だと考え、後者に注目する論者は「この改正によって中小企業の資金調達が変わるのではないか?それに、大多数の中小企業や金融機関は対応できるのだろうか?」と疑問を持っているからではないかと考えられます。今回は、まず第1の柱についてご説明します。
中小企業の多様な資金需要に対するきめ細かな対応
第1の柱である「中小企業の多様な資金需要に対するきめ細かな対応」について、以下のように提示されています。
(1)危機関連保証の創設【信用保険法改正】
・大規模な経済危機、災害等による信用収縮への対応)
(2)小規模事業者への支援拡充【信用保険法改正】
・特別小口保険付保限度額拡充(1250万円→2000万円)
・小口零細企業保証についても同様
(3)創業関連保証の拡充【産業競争力強化法改正】
・創業関連保証付保限度額を拡充(1000万円→2000万円)
※保証割合は100%保証を維持
・創業関連保証の拡充
(4)特定経営承継関連保証の創設【経営承継法改正】
・認定取得中小企業代表者個人の株式取得資金等を対象
・特定経営承継関連保証の創設【経営承継法改正】
(5)経営改善・事業再生の促進、再チャレンジ支援等
・保証メニュー充実
・抜本再生円滑化(求償権放棄条例の整備等)
・信用保証協会による経営支援
(6)円滑な撤退支援
・撤退資金保証
・撤退支援
(7)信用保証協会における出資ファンド対象拡大等
・再生ファンド以外のファンドに対しても出資可能に
制度の対象
信用保証制度見直しのうち第1の柱である「中小企業の多様な資金需要に対するきめ細かな対応」を見て、「お、7項目もあるとは、かなりの大盤振る舞いだな。これほどバラエティある支援策が準備されたのなら、普通の企業も適当に理由を付けて申請すれば利用可能だろう。中小企業の資金調達は楽になるのではないか」と思われる方がいても不思議ではありません。しかし、これらの制度の対象が誰とされているかをチェックする必要もありそうです。
<…持続可能な信用補完制度の確立に向けて(概要) URL>
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20161220002_01.pdf
この図からすると、第1の柱として提示されている信用保証の拡充は「創業期」や「再生期」、「持続的発展」、「危機時」にある企業を対象とするもので、「成長発展」にある企業を対象とした保証制度の拡充策は記載されていません。信用保証拡充により全ての企業が資金調達しやすくなるとは言えない状況かもしれません。 では「成長発展」にある企業はどうなるのか?これについては次回、中小企業庁が発表している情報から検証してみることにしましょう。
<本コラムの印刷版を用意しています>
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙1枚のボリュームなのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達できる企業になるための方法をしっかりと学んでみてください。
コラム「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
- 第1回 新年を迎えるにあたって一年の計画
- 第2回 今起きている中小企業金融の変化、そして求められている対応の変化
- 第3回 中小企業金融政策の転換理由とは?
- 第4回 金融と経営支援の一体的な推進
- 第5回 借入したかったら経営改善に努力するというスタンス
- 第6回 金融庁森信親長官インタビューから
- 第7回 事業計画書で経営改善の意思を示す
- 第8回 事業計画を作成して資金調達に成功した例
- 第9回 金融機関の特性に対応した行動を取る(日頃の行動編)
- 第10回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(前編)
- 第11回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(後編)
- 第12回 金融機関の特性に対応した行動を取る(コミュニケーション編)
- 第13回 今までは常識だったが、今は意味合いが薄れたアプローチ
- 第14回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(前編)
- 第15回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(中編)
- 第16回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(後編)
- 第17回 金融機関とのコミュニケーション
- 第18回 金融機関が質問する意図
- 第19回 金融機関からの質問に答える
- 第20回 金融機関に伝えたいことを伝える
- 第21回 どのタイミングで金融機関を訪れるか
- 第22回 経営力向上計画に取り組む
- 第23回 経営力向上計画策定をバネにする(上)
- 第24回 経営力向上計画をバネにする(下)
- 第25回 金融機関は経営者について何を見ているか?
- 第26回 IT導入補助金経営計画書を活用する
- 第27回 日頃のコミュニケーションで貸し剥がされない企業になる
- 第28回 金融機関を安心させるコミュニケーション
- 第29回 儲かる構図を作り上げる
- 第30回 専門家の助けを借りる
- 第31回 中小企業金融の行方
- 第32回 企業が伝えたいことと金融機関が知りたいこと
- 第33回 言葉遣いを気にしてみる
- 第34回 事業性評価融資を依頼する
- 第35回 事業性評価融資を依頼するための事業計画書
- 第36回 実際にご支援した事業計画書の例
- 第37回 計画策定のプロセス
- 第38回 金融機関に受け入れられなかった場合
- 第39回 金融機関の考えを知る
- 第40回 取引する金融機関を戦略的に検討する
- 第41回 金融機関の審査方法
- 第42回 「資金を調達すると同時に経営改善を目指す」セミナー(お知らせもあります)
- 第43回 年末資金調達の準備を始める
- 第44回 残念な事業計画書
- 第45回 金融機関が事業性評価融資を提案する場合
- 第46回 戦略とマネジメント
- 第47回 補助金活用で経営改善の姿勢を見せる
- 第48回 超特急で事業性評価融資を依頼する
- 第49回 信用保証はどこへ向かうのか?
- 第50回 金融機関とのコミュニケーションを深める
- 第51回 「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」の教訓
- 第53回 金融機関に、中小企業に歩み寄ってもらう
- 第54回 メインバンクを持つべきか?
- 第55回 ものづくり補助金を活用する
- 第56回 信用保証制度見直しに対応する(1)
- 第57回 信用保証制度見直しに対応する(2)
- 第58回 信用保証制度見直しに対応する(3)
- 第59回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(1)
- 第60回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(2)
- 第61回 信用保証以外の調達策「マル経融資」を活用する
- 第62回 創業資金を調達する
- 第63回 資金繰りを計画する
- 第64回 「不況業種」と言われたら
- 第65回 いつものことを、同じでなくする
- 第66回 金融機関との付き合い方を考える
- 第67回 情報を隠すか、開示するか
- 第68回 コンサルティングをうまく活用する
- 第69回 年末の資金調達を考える
- 第70回 資金調達できる!日頃の行動を考える
- 第71回 事業性を上手く表現する
- 第72回 忘年会か、記年会か
- 第73回 金融検査マニュアル廃止時代に生きる
- 第74回 中小企業に求められる臨機応変
- 第75回 会社の不調は誰のせい?
- 第76回 「事業性評価」依頼が失敗した時
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。
企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。
「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。