都内の中小企業経営者であるA氏から、実現すべき「利益率」に関する質問を受けた。
質問は「当社の売上高対経常利益率は20%で推移しています。しかし、上には上があるもので、過去10年以上それが50%を超えている企業も少なからずあり、当社も今後は50%はともかく、30%程度を目標に利益計画を立てるべきでしょうか…」といった内容だった。
筆者は、その質問に次のように回答した。「社長さん、世の中には、自然なこと・不自然なこと、また常識的なこと・非常識的なことがあります。このことは実現すべき利益率でも同様です。赤字も困りますが、とはいえ利益率は高ければ高いほど良いというものでもないと思います」と話をした。
するとA氏は、「では自然かつ常識的な利益率とは何%くらいですか」と再質問をしてくれた。筆者は「結論を言えば、人件費や未来経費を、業界や地域の平均以上支払い、かつ仕入れ先や協力企業に無理を言わず、双方が納得する適正な価格で購入しているとしたならば、利益率は5%から10%前後で十分と思います」と回答した。
するとA氏はさらに質問を重ねた。「なぜ、5%から10%前後が適正利益率なのですか。その根拠はなんですか」と。
筆者はその理由は3つあると答えた。第1は、わが国企業の過去10年間の売上高経常利益率。調べてみると規模や業種により違いはあるが、おおむね1~4%である。しかしながら、過去およそ10年間のわが国企業の赤字率は、大企業がおおむね35%、中小企業がおおむね70%であり、これら企業を除外して計算すると、全規模・全業種を平均し、おおむね5%である。
第2は、過去30年以上、好不況を問わず赤字を1回も出したことがない、評価の高い企業の売上高経常利益率。調べてみると、伊那食品工業や中村ブレイス、さらには未来工業など大半の企業が10%前後である。
そして第3は、利益の性質。つまり利益とは「お客さまからのお礼代」、利益とは「神様のご褒美」と考えれば利益は高ければ高いほどいいのではなく、おのずと適正な利益はある。
以上3つのことから考えれば、「適正な利益率は5%から10%前後と思います」と説明した。さらに「50%の利益率の会社は、社員や仕入れ先・協力企業に、もっと還元すべきです。その人たちに十分還元しているというならば、社会に還元、つまり商品の価格を大幅に下げてあげるべきです」と付け加えた。
<執筆>
法政大学大学院政策創造研究科教授、アタックスグループ顧問・坂本光司
2016年7月6日 フジサンケイビジネスアイ掲載