先日、ある調査研究機関から、2018年度「賃上げに関するアンケート」結果が公表された。調査は18年5月18~31日にインターネットでアンケート形式で実施、有効回答のあった7408社のデータを集計、分析した結果である。
その中で「賃上げを実施した」という回答社に、「賃上げした理由は何か」を複数回答で聞いた設問があった。その結果を見て正直驚いた。選択肢の中で最も回答が多かったのが「雇用中の従業員の引き留めのため」-。つまり、従業員を辞めさせないため、というものだったからだ。
しかも、その回答は賃上げをした5384社のうち、実に2735社(50.8%)と過半数に達していた。これを企業の規模別にみると大企業の42.2%に対し、中小企業は52.1%と9.9ポイントも上回っていた。
さらに「賃上げによりどのような効果があったか」という設問についてみると「従業員の引き留めに成功した(離職率が低下)」は大企業14.6%、中小企業17.2%とさほど大きな効果にはつながっていなかった。
ちなみに最も効果があったのは、「従業員のモチベーションが上がった」で、大企業は64.6%、中小企業は59.2%が回答している。
賃上げは、一時のモチベーション向上にはつながるものの、社員を引き留めるまでの効果は得にくいことが分かる。
一度、賃金を上げてしまったら、従業員は毎年上がることを期待するだろうし、下がるようなことがあれば、せっかく上がったモチベーションもあっという間に下がるだろう。
このことからも企業は、賃金アップによって従業員の引き留めを行うべきではない、ということは明らかである。
今回のように、従業員を引き留めるために賃上げをするのは、「賃上げでしか従業員を引き留めるすべがない」と言っているのも同然である。
会社の魅力やトップの魅力、働きがいといった魅力が感じられない企業に、誰が留まり続けようとするだろうか。さすがにそれは難しいだろう。
では企業は、従業員をどうやって引き留めるべきか。以前、この連載の執筆者でもある坂本光司氏が行った調査では、会社を辞める理由は「経営者や上司への信頼感をなくしたとき」が、「賃金や処遇に対する不満が生じたとき」などを抑えてトップだった。
従業員を引き留めるために、経営者は賃金などを重視しがちだが、それよりも大切なのは経営陣や上司に対する信頼感ということになる。経営者や上司と呼ばれている人たち自身が、従業員に対して言葉と背中で語れているかどうか、再確認してみてはどうだろうか。
<執筆>アタックス研究員・坂本洋介
2018年8月20日 フジサンケイビジネスアイ掲載