富士山を望む静岡県御殿場市に「ステップ・ワン」がある。障害者就労施設(B型)で、組織形態は社会福祉法人だ。就労している障害者は計52人。内訳は知的障害者44人、視覚障害者を含む身体障害者7人など。重複障害者も7人いる。
根上豊子理事長は働きたくても場所のない障害者に、働く喜びや幸せを提供するため、さまざまな事業を行っている。縫製加工、木工、食品加工、喫茶店運営、草取りサービス、さらには野菜生産などだ。
今回はいま最も注力し、市場の評価も高い野菜生産を紹介する。「ゆめ農」という農業ビジネスだ。根上理事長は農業ビジネスに進出した理由を「もっと給料を上げたかったから。さまざまな事業をやってきたが、農業が障害者に一番合っていると思ったから」という。
同事業は2012年にスタート。広さ1056平方メートルの空調付きビニールハウスでは「リーフレタスクイーン」や「リーフレタスリボン」が水耕栽培されている。ここで働く障害者は15人、障害者の支援スタッフも9人いる。
障害者の主な仕事は、水耕栽培のボックスの中に種をまき、手入れをして、収穫、出荷の手伝いである。
気になる販売先だが、地元の「JA御殿場」と食品スーパー「マックスバリュ東海」が全量買い上げてくれる。使っている水が農園の地下を数十メートル掘った富士山のバナジウム水で、加えて無農薬ということもあり、人気が高い。とりわけマックスバリュ東海からは障害者施設の商品というわけではなく「真においしいものだから、あるだけ持ってきてください」と頼まれ、今や生産が需要に追い付かない状態という。
まだ、スタートして3年だがゆめ農の売上高は、前年度1050万円にまで高まり、今後も拡大が見込まれている。
障害者とは無縁の主婦だった根上理事長が、この仕事を始めたのは、たまたま頼まれたパート職で、特別支援学校に通う生徒の送迎バスの補助者をしたことがきっかけという。「障害者を支援する仕事は自分の天職」と思い、その後、他の施設での勤務を経て、06年同法人を設立している。
こうした頑張る社会福祉法人を見ると、「自分たちには、まだ景気のにじみ出し効果が来ていない」とまるで「問題は外」といった発言をする企業の関係者が散見されるが、ステップ・ワンの「障害者を幸せにしたい」と念じ、経営革新に取り組む姿勢と努力は大いに学ぶべきである。
<執筆>
法制大学大学院政策創造研究科教授 アタックスグループ顧問・坂本光司
2015年7月8日「フジサンケイビジネスアイ」掲載