ある調査研究機関から、2018年「休廃業・解散企業」動向調査の結果が発表された。それによると、18年に全国で休廃業・解散した企業は前年比14.2%増の4万6724件だった。増加は16年以来、2年ぶりという。
18年の企業倒産は同2.0%減8235件と10年連続で前年を下回ったという結果もあるが、休廃業・解散の大幅な増加を見ると、景気が上向いている実感はやはり持ちづらい。
調査結果を見ると、休廃業・解散した企業の代表者は60代以上が83.7%と高齢化によって事業承継が難しい課題となっていることが浮き彫りとなった。
黒字廃業という言葉があるように経営面に問題はなくても、後継者不足などから経常黒字の状態で事業継続をあきらめるケースも増えてきている。実際、痛くない注射針で有名な岡野工業(東京都墨田区)もそんな会社の一つだ。岡野雅行社長は、金属加工で世界的に高い技術力を持ち、国から「現代の名工」にも選ばれた人物で、さまざまな賞も受ける超優良企業として知られる。
しかし、岡野社長も85歳を超え、同社にも事業継続の問題が起こった。岡野社長は今後の事業について「あと2年間。2年やったら辞めようかなと思っている。体が追いついていかない。頭も追いついていかない」と話し、続けて「後継者がいない。だから、2年後の罷業を決断した」と話した。
一方で、後継者難の価値ある企業を救おうとする動きも出始めている。金沢カレーブームの火付け役として知られるゴーゴーカレーグループ(東京都千代田区)の取り組みがそれだ。
金沢市にある地元住民に愛され続け、創業38年を迎えたインド料理店「ホットハウス」も数年前から後継者難という問題に直面していた。地域に愛されてきた店を守ろうと立ち上がったのが、ゴーゴーカレーグループの宮森宏和代表取締役だった。
宮森氏は金沢市出身ということもあり、ホットハウスの店舗によく通っていた。その味を知るだけに、これがなくなったら大損失になると、創業者の五十嵐憲治氏に「もし後継者がいなければ、事業承継させてほしい」と持ち掛けた。
さらに、その条件として、店名やレシピなどは一切変えない。働いている社員の雇用も守ることを約束した。今回の件に関し、宮森氏は「味を守るというか、なくさない」という思いを強調した。
今後も後継者難による廃業は増えていくことが予想される。廃業によって失われるのは、価値ある技術や長年愛され続けてきた味など無くしてはいけないものばかりだ。もちろん、廃業を検討する経営者が後継者育成を進め、技術や味の伝承に取り組み続けることは必要だ。
ただそれが困難な場合、廃業を食い止めるために、大切な何かを守るために、私たちに何ができるか。自分たちがその状況に陥ったときにどうすべきかを、もう少し検討することも重要だと思われる。
<執筆>
アタックス研究員・坂本洋介
2018年3月5日フジサンケイビジネスアイ掲載