知恵の経営

第145回

働き方改革で継続ケア実現

アタックスグループ 2018年1月15日
 
独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している企業を紹介している。今回は高齢者施設などを運営する社会福祉法人合掌苑(東京都町田市)の池クジラぶりを見ていく。

合掌苑は、創業者の市原秀翁氏が1953年、第一種社会福祉事業許可を受け、60年に東京都町田市で事業を開始した。市原氏は終戦後、タイで1年ほどの留置生活を経て復員。故郷の岐阜県で出家し、東京都中野区の寺で修行を積んだ僧侶だ。仏教の慈悲の精神から高齢者・障がい者の権利と尊厳を守ることに生涯を懸けた。「人は尊厳を持ち、権利として生きる」という基本理念は、市原氏の人生観から生まれた。

その理念は、現理事長の森一成氏にも脈々と受け継がれている。IT企業のプログラマーから合掌苑に入り、一般企業での経験が福祉業界の常識打破に大いに役立った。職員の働き方を徹底的に見直し、医療・福祉業界の平均14.8%という離職率を、7.9%にまで引き下げた。

改革の1つ目は介護業界の人手不足解消だ。日勤・夜勤のローテーションを廃止し、夜間は専従職員を雇用した。日勤は入浴、排泄(はいせつ)など重労働のケアを行うが、夜間は入居者が就寝し重労働が減るため、体力がなくてもいいベテランを採用した。

2つ目が無線LAN環境を導入し、タブレット端末を活用したコミュニケーションの充実だ。顧客の変化をリアルタイムで情報共有し、チームプレーを可能にした。職員全員にインカム(移動スタッフへ一斉指令ができる携帯無線機)を装着させて応援要請を簡単にできるようにして職員のストレスを軽減、顧客に関わる時間を増やした。

さらにシフト制や拠点が3カ所に離れているため困難だった個人面談を、スカイプの活用で全職員に毎月1回実施できるようにして、経営者・管理者と職員とのコミュニケーションが大いに活性化した。

一方で、利用者の満足度向上にも取り組む。介護不要の人が入居するマンションタイプのフロア、海外の先進モデルを導入した認知症専門フロア、医療依存度が高い人向けのフロアなど入居者の状態に合わせ最適なフロアに移動して住み続けられ、一貫性のあるケア体制にした。このため最後の「看取り」の瞬間まで尊厳を守ることができる。一般に看取り率は高齢者施設で20%を下回るが、合掌苑は95%を超える。看取るだけでなく、施設内のホールで葬儀まで執り行える。

合掌苑は、働き方を改善して働きがいを高め、職員から生まれた企画提案を取り入れて高齢者アパート運営から看取り、葬儀まで行う。介護者が他に移る必要のない、継続的なケアを受けられる高齢者コミュニティーという「池」を創り、その池のクジラとなっている。

<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明

2018年1月15日フジサンケイビジネスアイ掲載
 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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