物事には全て「目的」と「手段」と「結果」がある。この3つの中で最も重要なのは、言うまでもなく「目的」である。というのは、目的が不純であれば、そのための手段も当然不純となってしまうからだ。
不純な目的と手段で達成された結果が、世のため人のためになるはずがない。一時は市場をごまかせても、そうした経営はすぐにメッキが剥がれてしまうことは歴史が証明している。
企業経営で目的を示すものは「経営理念」である。経営理念は企業の存在目的を、社内外の関係者に簡潔に示したものだ。
もう少し具体的に言えば「わが社は何のためのこの世に生まれたのか…」「わが社は何を通じて社会に貢献するか…」といった存在価値を示した宣言文と言っても良い。もっとはっきり言えば、企業経営を行っていく上での“憲法”であり、全社員の言動の“よりどころ”と言っても良い。
企業によっては、経営理念といわず、あるいは経営理念に加え「社是」「社訓」「社憲」「モットー」「クレド」「信条」そして「綱領」などというところもある。
ともあれ良い経営理念の策定と全社員への浸透は極めて重要である。それもそのはず、経営理念とはすでに述べたように、その企業の存在目的であり、全社員の言動のよりどころとなるからだ。
もしも経営理念がなければ、その企業はまるで方向舵を持たずに走っている飛行機や船であり、そこに同乗している人々は夢も希望もなく毎日毎日、不安だけが蓄積されていくだけだ。
経営理念の策定は言うまでもないことだが、実はわが国の中小企業、とりわけ小規模企業に限って言うと、経営理念の策定企業比率は30%も満たないのである。ここにこそ、中小企業の本質的問題があるといえる。
経営理念は策定されていればいいというものではない。より重要となるのはその内容である。つまり、その中に何が盛り込まれているかである。
紙面に余裕がなくなってしまったが、筆者のこれまでの8000社以上の研究成果を踏まえて、あえて言えば、業績が安定的に高い「いい企業」は、経営理念がいいのである。いい経営理念とは「社員やその家族はもとより、顧客や取引先・地域社会を幸せにしたい」という内容が本文または行間にあふれているのである。
まさに「いい会社にはいい経営理念」が存在しているのである。その意味では元気のない企業の疑うべきことは、経営戦略ではなく経営理念といえる。
<執筆>
アタックス研究員・坂本光司
2017年7月31日フジサンケイビジネスアイ掲載