知恵の経営

第111回

需要創造で絹織物の新天地

アタックスグループ 2017年4月3日
 
 JR福島駅から車で30分ほど走った山間の町である福島県川俣町に齊栄織物という社員数が十数人の中小企業がある。

 主な事業は社名の通り、絹織物の製造販売だ。織物には「先染織物」と「後染織物」があるが、同社が得意とするのは先染織物で、その加工は高度な技術を必要とする。

 川俣町は古くから絹織物の産地として栄え、大正時代には全国生産量の1割を占めていたが、その後、低価格の輸入品や化学繊維の台頭によって年々生産量が減少し、今や川俣地域にも数社が残るだけである。しかしながら、その中にあって元気な絹織物業がある。

 その代表格が、今回取り上げる齊栄織物である。同社が関係者の間で注目されるようになったのは数年前。それは同社が世界で最も薄い絹織物「妖精の羽」(フェアリーフェザー)の製造に成功したことによる。

 ちなみに、その薄さはというと、撚(よ)り合わせても8デニールほど。わかりやすく言えば、人間の髪の毛の6分の1の細さしかない。先日、同社の本社を訪れ、この素材で製作されたウエディングドレスやストールを見せてもらうことができたが、その光沢といい透明感といい、またその軽さといい、まるでオーロラのような商品だった。

 ちなみにウエディングドレスは、既存商品と比較して3、4倍の絹糸を使用しているにもかかわらず、その重さは何と600グラムにすぎない。

 素材そのものはブラジルで生産されているものだが、その素材に着目し、業界の将来を懸けて製法技術を確立し、用途開発に成功したのである。

 とはいえ、長い間失敗の連続で、この素材の製法技術を完成させるまで4年の歳月を要している。
 
 しかしながら、この素材と商品の存在が、展示会やマスコミの記事などにより、国内はもとより世界中に知られていくに従い、この商品の軽さや耐熱性、さらには美しさに着目したアルマーニなどの大手ブランド企業や有名デザイナーなどから注文が相次ぐようになり、現在はフル操業の状況にある。

 近年では、衣料品という分野ばかりではなく、気象衛星のパラシュートや高級ふとん、光ファイバーを覆うテープ、さらには人工多能性幹細胞(iPS細胞)の培養に用いる皮膜材などに使用したいといった依頼が増えているという。

 こうした元気な中小企業の存在を知ると、企業とは「指示待ち業」ではなく「需要創造業」ということができる。

<執筆>
法政大学大学院政策創造研究科教授 アタックスグループ顧問・坂本光司
2017年4月3日フジサンケイビジネスアイ掲載
 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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