今回は北関東(茨城・栃木・群馬)と埼玉、千葉の各県を中心に、79店舗のファミリーレストラン事業を展開する坂東太郎(茨城県古河市)に焦点を当てる。同社は本連載でたびたび取り上げられているが、まだまだ紹介したい点は多くある。
飲食業ということもあり数多くのパート・アルバイトが働いているが、その呼び名に関して徹底されていることがある。それは「パート・アルバイト」という呼び方は一切しないことだ。当初は「私はパートだから…」という人が出てくることもあったという。
現在は何と呼んでいるかというと、働く人すべてが家族という思いから、パートのことは「ファミリーさん」、アルバイトのことは「フレッシュなファミリーさん」などと、会社で働く家族であるという明確な位置づけをしている。
多店舗展開をする同社にはパート・アルバイトの女性たちは貴重な“人財”。しかし、その多くが家庭を持ち、短時間勤務しかできない事情を抱えている。したがって正社員にはなれない。そのような中でも彼女たちの意識を高め、これまで以上に仕事を楽しみ、やりがいを感じられる職場を提供したいという創業者、青谷洋治会長の思いが込められている。
その思いは決して呼び名だけではない。具体的には店舗・店長・社員それぞれに対する数多くの表彰制度があるが、個人を対象とした賞に「女将(おかみ)ナンバーワン賞」「花子ナンバーワン賞」などがある。
ちなみに「女将さん」とは、パートで働く女性たちの中で10年、15年と同一店で勤める人を女将に任命して、2~3年で他の店舗へ異動してしまう正社員の店長に代わり、顧客の出迎えや見送りなどの接客、スタッフのマネジメントを行う。また「花子さん」はアルバイトの学生ら若い従業員の相談相手と、女将が店にいないとき代役を担う人たちの呼び名だ。
このように全社で働く人すべてが家族という思いを強く持つ。顧客が大事だからこそ社員を一番大事にしているのだ。現在、従業員は非正規を含めて約2100人だが、正社員はたった1割しかいない。正規も非正規も雇用形態は関係ない。青谷氏の代わりに手足となり代理となる従業員。たとえそれがパート・アルバイトでもトップの代わりを務めてくれている。だからこそ一番なのだ。
その人が幸せでなかったら、元気でなかったら、顧客を喜ばすことができないことをすごく大事に考えている。これは決してきれい事ではなく、青谷氏は社員の幸せづくりを心底考えているのだ。多くのパート・アルバイトを活用している企業には、その存在を改めて認識してもらいたい事例である。
<執筆>
アタックス研究員・坂本洋介
2017年7月3日フジサンケイビジネスアイ掲載