知恵の経営

第192回

時流に乗るまで諦めない

アタックスグループ 2019年4月9日
 
新たな市場を開拓し成功した企業を取り上げてきたが、今回は無添加せっけん市場で圧倒的なシェアを築いたシャボン玉石けん(北九州市若松区)を見ててみたい。同社は1910年創業。2代目の森田光徳氏は、合成洗剤を製造していたが、個人的に原因不明の湿疹に長年悩まされていた。

71年、日本国有鉄道(国鉄)から「合成洗剤で機関車を洗うと車体がさびる」と無添加の粉せっけんの開発・製造を依頼された。

試行錯誤の末、無添加せっけんを作り上げて自分で使ってみたところ、湿疹が快癒した。森田氏は、「身体に悪いと分かった以上その商品を売るわけにはいかない」とそれまでの合成洗剤を止め、74年に無添加せっけん製造販売のパイオニアとなった。

しかし、当時はまだまだ無添加せっけんに対する需要は少なく、それまで月に8000万円あった売り上げは78万円に激減し、100人近くいた社員も一時は5人にまで減少した。不安を感じた社員は口々に「無添加せっけんの需要はない。合成洗剤に戻しましょう」と訴えた。それでも、森田氏は「自分が怖くて使えない洗剤は売れない」とし、苦境の中でも「健康な体ときれいな水を守る」という経営理念を曲げず、無添加せっけん専業を貫き通した。

74年から91年まで17年間も赤字続きだったシャボン玉石けんが、なぜ、事業に成功できたのだろうか。

1つ目は、損得よりも善悪を基準とし、湾岸戦争直後の「環境を守らねば」という時流に乗るまで諦めなかったことが挙げられる。同氏が執筆した『自然流「せっけん」読本』(サンマーク出版)は10万部を超えるベストセラーとなった。現在、「無添加」とうたっている商品が世の中に数多く出回っているが、添加物が何か1つでも入っていなければ無添加とできる。例えば、着色料が入っていないだけで「無添加」とパッケージに大きく書くことができるのだ。

2つ目として、効率性を追求せず、質の良いせっけんを作るため、伝統的な製造方法にこだわった。一般には「中和法」といわれる、4~5時間で大量生産できるせっけん製造方法を用いる。シャボン玉石けんは、添加物を入れない質の良いせっけんをつくるため、熟練職人が1週間から10日間かけてじっくり丁寧に作る釜炊き製法「ケン化法」を取った。

3つ目は、ファンづくりという営業スタイルがお客さまの心を捉えた。営業要員は伝道師の役割を担っている。価格に訴求せず、商品の良さに共感していただき、お知り合いを紹介していただける関係構築に徹した。また、売り上げの40%強を占める通販もオペレーターは正社員で、伝道師の役割を担う。

苦境の中でも信念を曲げず、手間を惜しまず、無添加せっけん専業を貫き続け、身体にも自然にもやさしい商品を作り続けることで、多くのお客さまから高い評価を得ることに成功した。

<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明

2019年4月9日フジサンケイビジネスアイ掲載
 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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