知恵の経営

第230回

変わる宿泊業の働き方 業界常識の改革に挑む旅館・ホテルも

アタックスグループ 2020年2月4日
 
宿泊業といえば、休日が少なく営業時間が長い代表的な業界と思われている。事実、少し前の調査結果にはなるが、2010年に厚生労働省が旅館業に対して「仕事と生活の調和アンケート」を実施している。その中で「仕事と生活の調和」推進の障害と考えられる理由という設問に対し、「客との関係で労働時間が不規則になりがち」(74.4%)、「季節など時期的な繁閑差が大きい」(66.7%)、「営業時間が長い」(59.0%)、「夜間や休日の勤務が発生しやすい」(51.3%)が50%を超えていた。

当然、客の都合に応じて業務が発生する業務内容であるため、労働時間や休日が不規則になるのは致し方ないと言わざるを得ない面もある。しかし、ここ数年で、その業界常識の改革に挑む旅館・ホテルも出始めてきている。

大分県別府市の杉乃井ホテルは、今年も正月明けの1月14日~23日まで全館休業、約1000人の従業員を一斉休暇としている。この取り組みは既に今年で3年連続となる。支配人は「これまで顧客満足度にひたすらこだわってきたが、社員満足度にも力を注がないといけない。企業が有給休暇取得を推進する時勢で、連休拡大は避けては通れなかった」と話す。

この取り組みにより、当然、売り上げは数億円の減収になるというが、それをはるかに上回る価値も生まれている。まずは、社員のモチベーションの向上。いくら好んで働いているとはいえ、やはり自分がある程度満たされていない中で、それをやり続けるのはいつか限界が来る。今回のように自分たちが大事にされていると分かれば、その満たされた気持ちがモチベーションとなり、それが自然と接客サービスにつながっていく。

次に、採用活動への効果。過酷な労働のイメージが強く、なかなか応募者が集まらない中で、この取り組みを始めたところ、これまで九州が中心だった新卒採用応募者が、関東や北海道など全国に広がった。実際に、新卒採用の応募者数は前年の1.5倍になったという。

こういった事例は、週3日休館を導入して売り上げ倍、社員の平均年収も4割増を実現させた神奈川県秦野市の鶴巻温泉「陣屋」や旅館にとって一番の稼ぎ時の盆・暮れ・正月を社員のために休む長野県須坂市の仙仁温泉「岩の湯」など、他にもいくつかある。

社員満足が顧客満足に発展する。奉仕を先に利を後にではないが、働き方改革を真剣に考える経営者と旅館・ホテルで働きながらも、まとまった休みを取れることに感謝を感じる社員。お互いがウィンウィンの関係になっているからこそ、顧客にも就職希望者にも、その思いが伝わり、人を呼び寄せているのだろう。

<執筆>
アタックス研究員・坂本洋介
2020年2月4日フジサンケイビジネスアイ掲載
 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


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