知恵の経営

第154回

頑張る福祉機器メーカー

アタックスグループ 2018年3月26日
 
工場や農業で使用する省力機械・ロボットや福祉機器の設計製作を手掛けるキシエンジニアリング(島根県出雲市)という社員7人の中小企業がある。

社員7人程度のものづくり企業というと、大半は大手企業や中堅企業の部品加工などを行う「下請け企業」だが、同社は創業から自社商品作りと値決めのできる経営を行っている。

経営の原点は創業者の岸征男会長が掲げた創業目的にある。岸会長は地元出雲市の出身であり、大学の工学部を卒業後、故郷にUターンし、県内の大手農機具メーカーの研究所に勤めた。高い評価を受けていた開発技術者であり、独立する気持ちはさらさらなかった。

独立するきっかけは、授かった娘が、病気とその後の治療方法が原因で、障害児となってしまったことだ。その障害は重く、身体を自分の意思で動かすことも、食べ物を飲み込むこともできず、さらには目もほとんど見えない重複障害だった。

心優しい岸会長は「少しでも長く娘の傍にいてあげたい…」「自分の技術で子供の障害を治してあげたい…」という思いで、多くの仲間の反対を押し切り、将来を嘱望されていた大手農機具メーカーを退職。1985年、自宅の納屋を改造して1人で創業した。

以後、経営を維持するために、前職で関係のあった特殊仕様の農機具や工場向けの自動機械やロボットを設計製作しながら、障害のある娘や、その関係で知り合った障害者のためになる福祉機器の研究開発に没頭していった。

こうして開発された商品は、およそ30年間で50種類をはるか超えている。その代表的な商品は「リフト付き電動車いす」「正圧式呼吸トレーナー」「サドル付き歩行器」「入浴補助リフト」などである。いずれの機器も障害者のニーズやウオンツを知り尽くしていないと到底できない価値ある物ばかりであり、その商品を見たり、その開発秘話を聞くたび私たちは涙する。

「リフト付き電動車いす」は、ボタン一つで車いすのいすの部分が下は地面まで、上は棚のものが手で取れるほどまで上下の移動がスムーズな機器であり、障害者の自立・自活化に役立つものだ。

また、「正圧式呼吸トレーナー」は深呼吸を補助・促す機器。酸素不足の結果、回復が遅れ、不便を強いられている障害者のために、数年をかけて開発された画期的な商品である。

より驚かされるのは、こうした福祉機器は、研究開発費をとらないばかりか、その価格も採算度外視である。このことを岸会長は、「障害者のいる家庭は裕福な家庭ばかりではない。困っている人を助けたいだけなのです…」という。

<執筆>
法政大学大学院政策創造研究科教授、アタックスグループ顧問・坂本光司

2018年3月26日フジサンケイビジネスアイ掲載
 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


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