知恵の経営

第256回

他社がやらないことこそ

アタックスグループ 2020年6月16日
 
今回は、浜松市で各種ばねや関連製品の製造販売を行う沢根スプリングを紹介する。同社は1966年、沢根孝佳社長の父が浜松で創業。当時、自動車部品メーカーの量産品が主な仕事だった。日本のばね業界では、需要の6割が自動車業界、2割が家電業界。同氏が社長に就任した1990年当時、ご多分に漏れず、同社の売り上げも8割は自動車業界向けで、お客さまからの図面や仕様に基づいて製造する下請け受注生産だった。同氏は、早くから「効率的に毎日同じものを大量に作り続け、価格競争の中で戦い続けることほどつまらないことはない」と考え、自社商品を持ちたいと強く望んでいた。


同氏は、アメリカのボストンにある社員30人程度のばね工場を視察したことをきっかけに、ばね1個からの注文に対して、夕方5時までなら即日発送する業界初の通信販売事業を確立した。既に事業化されていたビジネスモデルをアレンジし、磨きをかけたのだ。1987年の開始当初は、ばね業界も業績が好調だったことから、「ばね1個からの通信販売なんて商売にならない」と同業他社からは冷笑されたが、その信念は揺るがなかった。


今日では、取り扱うばねは5000種類、加工が必要なオーダー品は最短2日目に発送し、全国3万2000社の顧客に世界最速工場として、「時間」という価値を提供している。さらに、工業用ばねから抜け出し、医療用の極小ばねという新たな分野へと事業を拡張。2001年からは、業界に先駆けインターネットを活用したばねのショッピングサイトを運営。さらに10年からは、動物実験用脳血管クリップ「マイクロコイル」など医療用のばねやコイルを、インターネットで海外向けに販売している。


また、同社は、通信販売以外でも、1個単位で加工・販売する小口取引を採用している。1個から注文することが可能で、短納期(即日発送、翌日到着)を基本としているため、8割あった自動車部品メーカーの量産品の仕事の割合を、今日では30%程度にまで縮小させた。こうした小口取引に対応しつつ、業界の常識を打ち破る「翌日到着」を可能にするスピードは、1個のばねを今日・明日に欲しいというユーザーにとっては大きな魅力である。現在では、「売り上げの60%が小口スポット品」というまでになった。


同社は、価格決定権がなく発注者の意向に大きく左右される業界において、他社がやらない・やれない・やりたくない面倒な市場で生きていくと決断。微量のばねを超短納期で届けるという「時間」価値を生み出すことに成功した。これによって値決めが可能となり、価格競争から抜け出し、世の中から高い評価を得ている。



<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明
2020年6月16日フジサンケイビジネスアイ掲載
 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


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