経済センサス(2016年)によれば、近年の年間平均開業企業数は14万社、廃業企業数は27万社となっている。差し引きすると、年間13万社が減少している。より驚くのは、この間、好不況などいかなる環境変化にも企業は増加せず、右肩下がりに減少し続けていることだ。多くの企業において新たな時代が求める経営や、そのための価値創造ができなかったのが最大の要因だ。
時代は今や「右肩上がりの時代ではなく右肩下がりの時代」「ボーダーの時代ではなくボーダーレスの時代」「ローカルの時代ではなくグローバルの時代」「顕在需要の時代ではなく潜在需要の時代」「モノの時代ではなく心の時代」「単独の時代ではなく連携の時代」「勝ち負けの時代ではなく共生の時代」そして「業績重視の時代ではなく幸せ重視の時代」。
こうした変化の中で、新しい時代が求めていない、旧態依然とした経営活動を行っていたならば、次第に経営は行き詰まり、やがてじり貧どころか、哀れな幕切れをしてしまう。
こうした時代をたくましく生き抜く方策は多々あるが、その一つが、マーケットを広く世界に求める経営。あえて言えば、小さな世界企業・スモールジャイアントを目指す経営のこと。国内マーケットを見れば、人口減社会を迎え、既に多くのマーケットは飽和状態どころか、シュリンクしてきている。一方、海外に目を転じると、アジアの国々をはじめ世界の大半の国々の人口やマーケットは、程度の差こそあれ、右肩上がりに増加している。
その意味では、企業を成長発展したいと思うならば、あるいは、せめて現状維持をしたいと思うならば、好むと好まざるとにかかわらず、中小企業といえども海外に目を向けた経営をしていくのは当然だ。
中小企業の輸出は、日本経済の未来にとっても重要で、物的資源の乏しいわが国経済が、世界の国々と共生していくためには、バランスの取れた貿易が欠かせない。
とはいえ、これまでのような大企業に主導された大量生産・大量販売型の輸出や価格競争型の輸出は、年々困難になっていく。それは、他国企業との競合が必至の分野の輸出は、好むと好まざるとにかかわらず他国企業との軋轢(あつれき)を強くしてしまうからだ。
こうした軋轢を生まない輸出の方法は、貿易の主役の交代が効果的と思う。つまり、その主役を大企業から中小企業、価格競争型商品から非価格競争型商品にすること。つまり敵をつくらない・ケンカをしない輸出だ。
こうした中小企業が多数になれば「塵(ちり)も積もれば山となる…」ではないが、これまで、ほんの一握りの大企業が稼いでくれた輸出による外貨を、中小企業が担うことになる。
<執筆>
経営学者・元法政大学大学院教授 人を大切にする経営学会会長・坂本光司
2020年1月7日 フジサンケイビジネスアイ掲載