企業の人材採用は大きく新卒採用と中途採用の2つに分けることができる。
新卒採用は年齢・学歴などの面でほぼ同質な人材を、同時期にまとめて採用できるため、1人当たりの採用・教育にかかるコストの低減が図れる。また、長期雇用を前提としているため、新卒社員が入ってくることで年代別の構成を維持しつつ組織全体が毎年、新陳代謝を繰り返し、企業・労働者双方によって、企業文化・組織風土などを長期的な展望に基づいて継承していくことが可能となるなどのメリットがある。
半面、新卒社員は就業経験がなく、入社後一定期間は戦力として期待することができない。同時に職場内訓練(OJT)も含めた教育を担当する社員の時間とコストが取られる。また、若年層の職業観が多様化したことにより長期雇用の前提が崩れていることもあり、長期的展望を抱きにくくなっているといったデメリットもある。
一方、中途採用者は自社にはない知識、技術、経験を有し、即戦力として期待できる。変化の激しい現在の企業経営に機動的に対応できる点が最大のメリットとなる。
しかし、経験を買って採用するため、必ずしも自社の組織風土・企業文化に合う人材かどうかは分からない。加えて、自身の保有する能力をより発揮できる環境、より良い賃金を得られる環境があれば他社に転職される危険性が高いといったデメリットもある。
新卒採用、中途採用のいずれもメリット・デメリットが存在する。またどちらが正解ということもない。自社の抱える現状から最適な方法を選んでいくしかない。
新卒採用に対する取り組み事例として、長野県にある超精密部品の金型開発とプレス加工を行うA社を紹介したい。
同社は中途採用が基本だった。中途ということもあり、雇用した社員に定着意識はなく、どんなに教育しても身につけた技術を持って同業他社に移るケースが多々あった。
そういったこともあって採用方法を中途採用から新卒採用へと転換した。新卒で採用した社員たちに、一から教育する中である変化が生まれた。経営者の中に、社員たちにもっとこうしてあげたい、ああしてあげたい、という思いが自然と高まっていったのだ。
新卒社員は初めて社会に出るため、それはまるで子育てに近い感覚だった。日々、育っていく社員たちは、経営者にとっては子供のような存在であり、その成長を見守ることで、いつしか社員を大切にしたい、社員は家族だという思いが生まれた。
多くの企業が、新卒社員を育成する時間がない厳しい状況下ではある。
だが、子育てを放棄する親はほとんどいない。企業の採用活動も子育て同様、新卒社員を時間をかけて育てていくことで愛情が生まれ、その愛情に応えようと社員も成長していくのである。
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