企業の競争力には、価格競争と非価格競争の2つがある。価格競争とは「価格の安さ」や「他社より安い…」ことをセールスポイントとした経営を意味する。一方、非価格競争とは価格の安さではない価値、具体的には「商品力」「ブランド力」「サービス力」「技術力・開発力」「オンリーワン力」「社員力」さらには「ビジネスモデル力」といったことをセールスポイントとした経営である。
どちらの競争力が優れているかといえば、両方優れていれば「鬼に金棒」だろうが、それはそう簡単なことではない。恐らく読者の百パーセントの人たちが、「非価格競争」をあげると思われる。それもそのはず、価格競争経営は常にライバル企業と「仕事をとったとか、とられたか…」といったことに、一喜一憂した経営を余儀なくされ、その経営は常に不安定・不確実になってしまうからだ。
加えて言えば、価格競争では値決めは自社の原価計算ではなく、常にライバル企業の価格を気にした経営をせざるを得ないばかりか、不況や円高の度に大幅なコストダウンも要求されてしまう。
先日も自動車部品を生産する社員数約70人のある中小企業の経営者から相談を受けた。
「取引先から、これまで同様コストダウンを要請されました。取引先のここ数年の決算状況は、過去最高益だが、当社は毎年の相次ぐコストダウンで、今は収支トントン。ここでコストダウンを受ければ、間違いなく当社の経営は赤字に陥ります…。どのように対処すればよいのでしょうか…」
筆者はその経営者に「ところで、そんな理不尽なことを平気でやるような企業との取引依存度は何%ですか?」「仕事は『貸与図取引』ですか、それとも『承認図取引』ですか?」、さらには、「あなたの会社には設計開発技術者が何人いるのですか?」などと質問をした。
その経営者は、依存度は80%、取引は貸与図取引、そして設計開発技術者はゼロと答えた。筆者はその経営者に「取引先の取引姿勢も許しがたいが、そういう取引先に命を預けたような経営をやってきた、社長さんの経営の考え方・進め方にもっと大きな問題があります。10年かけて、この取引先との取引をやめる経営を一緒に考えましょう」と言った。
ともあれ、筆者の研究室の調査によると、わが国中小企業で非価格を武器にした企業は僅か19%、逆に価格の安さを武器にした企業は何と81%もある。
価格の安さを売り物にした経営では、企業経営の最大の目的・使命である社員とその家族の幸せなど実現できるはずもなく、わが国全ての中小企業の非価格経営への転換が今強く求められている。
<執筆>
法政大学大学院政策創造研究科教授、アタックスグループ顧問・坂本光司
2016年6月1日 「フジサンケイビジネスアイ」掲載