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知恵の経営

第258回

退き方を常に頭の中に 起こりうる“最悪のケース”

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
8月28日に、安倍晋三首相が自身の持病再発による体調不安を理由に辞意を表明した。連続の在任期間が2799日と歴代最長となるなど、7年8カ月の長期に渡った。ただ、正直に言えば、他に代わる人材がいなかったのかもしれないが、7年8カ月の期間は長すぎるように思う。

これは政治だけの話ではなく、企業経営においても同様なことが言える。国内企業の取締役の在任期間を見てみると、30年以上在任しているトップも多く、中には60年近く在任しているトップもいる。

筆者は、何も年数が長いことだけを問題にしたいわけではない。人格・識見・能力・意欲・体力が備わっていれば、長期政権を続けることもあってよいとは思う。ただ、期間が長くなればなるほど、またその退き方が難しくなるのも事実である。安倍首相のように自身の明確な心身への不安が見られれば別だが、こういったケースはそう多くはない。

その退き方に関して、本連載執筆者でもある坂本光司氏は次のように話している。大半の企業には社員の定年がある。しかし経営者に定年がある企業はあまりない。たいていの社員は60~65歳で好むと好まざるとにかかわらず、定年退職する。一方、社長はよほどのことがない限り、その年齢で社長職を退くことはない。高齢経営者は「自分はまだ元気だから」とか「後継者が育っていない」と言うが、その言葉をまともに聞いている社員はほぼいないだろう。

経営者も社員と同じように、自らの定年を定めるべきで、その判断基準は必ずしも年齢によるものだけではないという。具体的には、企業家精神の明らかな低下とは、3年続けて本や新聞、雑誌などを読む量が減ったり、講演会や企業見学などに行く機会が低下したりしているなど、新しいことへの関心が薄くなり、学ぶ意欲が減退している状態。平時で2年連続赤字決算というのは、顧客や社会から自社の商品・サービス、自身が経営者として評価されていないという何よりの証明になる。

後継者が育ったときとは、それを判断するのは自分自身ではなく、客観的評価をしてくれる信頼のおける仲間や友人の声に真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。後継者が特に親族になる場合には、正当に判断がしづらくなる。また自身が、いくら健康でやる気があると言っても、誰しも確実に年を取る。

それは後継者にも言えることで、自身が年齢を理由に引退を考えたときには、後継者も当然年齢を重ね、承継できないという最悪のケースも起こりうるのだ。判断基準は、この3つだけではないが、いずれにせよ自身の退き方を常に頭に入れておくのも、トップの重要な仕事の一つだと考える。


アタックス研究員・坂本洋介
2020年9月8日フジサンケイビジネスアイ掲載
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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