独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となって高収益を獲得・維持している中小企業を紹介している。15回目の今回は「BUTTERFLY(バタフライ)」ブランドで知られる、世界有数の卓球用品総合メーカー、タマス(東京都杉並区)を見ていきたい。
2013年時点で日本卓球協会(JTTA)に登録している競技者は約32万人で、35年前に比べて約6倍に増えた。ただ世界的には競技人口が多いものの、国内では依然マイナーなスポーツと言わざるを得ない。
創業は1946年。当時、競合は日本卓球(ニッタク、東京都千代田区)のみで市場もほとんどない状況だった。卓球の全日本チャンピオンだった田枡彦介氏が、「なかなか自分が使いたい用具がなかった」ため「だったら自分で」と創業した。
以来「卓球という小さな井戸を掘り続ける」ことにこだわり、卓球用具の専業を貫いている。今では世界100カ国・地域以上へ輸出し、売上高50億円のうち海外は40%を占める。
商品のラケットラバーは、2015年に開催された世界卓球(中国・蘇州)に参加したトップ選手のうち58.8%が使用していたほど、「世界のトップ選手が使いたくなる卓球用具」という“小さな池”の圧倒的な“クジラ”だ。
ここまで成長した理由はいくつかある。社員の約7割が元卓球選手で、競技者が抱える不便や不満、不安が分かった。それを解消する新商品を開発し、無償提供した数百人の現役選手をモニターした。その意見を新商品に反映させ、一方で、産学共同によってラバーなど新素材開発に取り組んだ。
加えて、市場拡大をただ待つのではなく競技人口の裾野を広げることに積極的に投資した。「バタフライ道場」「レディース教室」「らくご卓球クラブ」などである。ちなみに福原愛選手も幼い頃から「らくご卓球クラブ」のメンバーだった。
競合がいない市場で戦う位置取りと、競技者自らが使いたくなる商品を作る、プロダクト・アウトでありながらマーケット・インの開発を行った。さらには積極的かつ能動的な競技人口の拡大と市場の創造をし続けた。その結果、「池のクジラ」として、ここまで大きくかつ強く、成長して来られたのではないだろうか。
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