筆者が会長を務める名古屋市内のロータリークラブ(RC)で、職業奉仕活動の一環として坂本光司・法政大学大学院教授による「景気超越型企業に学ぶ経営戦略」という講演会を開催した。坂本教授は中小企業経営研究の第一人者で、ほかのRCにも声を掛けたところ220人が参加し、大盛況となった。
坂本教授によると、これまで訪問した7500社の約10%が景気を超越した経営をしていると言う。訪問先の経営者から直接聞き取り、講演で紹介された事例を示す。
寒天メーカーとして断トツの業績を誇る、伊那食品工業(長野県伊那市)は原料のテングサの用途を食品以外の化粧品や医薬品にも広げ、1985年の会社設立以降、1期を除き増収増益である。実質創業者の塚越寛会長は「年輪経営」といい、社員をリストラせずに年々着実に成長している。トヨタ自動車の豊田章男社長もその経営を学ぶほどの会社だ。
手術用縫合針のマニー(宇都宮市)は、外科・眼科・歯科治療に使う機器の研究開発を行う超優良企業。毎年1000種類の新商品を発表している。
人工乳房をはじめ義肢装具メーカーの中村ブレイス(島根県大田市)は社員75人の中小企業だが、極めてユニークな会社だ。「第2回ものづくり日本大賞」では製品・技術開発部門の特別賞も受けている。
東海バネ工業(大阪市福島区)は従業員85人のバネメーカー。取引先は1000社以上、平均受注数1~5個、受注金額数万円という多品種微量生産を得意とする町工場だ。絶対に値引きしないバネ屋として、創業以来七十数年、一度も赤字を出したことがない。
講演の中で坂本教授は、景気に左右されない「景気超越型企業」は、経営規模の大きさや業種・業態、ロケーションも関係なく、値決めの決定権があることが重要だと語った。そして、このような会社にしていくことができるのは、社員の働きであり、経営者は、社員を大切にする会社を目指すことが一番大事だと強調していた。
一方、「事業の目的は顧客の創造である。そのためには顧客が誰か、顧客の認める価値は何かを追求するマーケティング活動と、より経済的に価値を提供するためのイノベーション活動が重要である」と言ったのはドラッカーだ。こうした活動を行うのは社員。社員を大切にし、社員の幸せを第一に考え、全員参加で主体的に社員が幸せになる会社づくりを行うことこそ、先行き不透明な時代を生き抜く王道の経営ではないだろうか。
<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・丸山弘昭
2016年2月3日「フジサンケイビジネスアイ」掲載