知恵の経営

第184回

上司に求められる判断能力

アタックスグループ 2019年1月29日
 
今年も2、3日と、第95回東京箱根間往復大学駅伝(箱根駅伝)が開催され、東海大学が総合優勝して幕を閉じた。毎回、激しい優勝争い・シード権争いが繰り広げられるなかで、考えるべき問題も提起してくれるのが、この大会だ。

今回は、往路1区でそれが起きた。スタート直後に大東文化大学4年生の新井康平選手が転倒し、足を引きずりながら、襷(たすき)をつないだシーンだ。沿道やテレビで見た人も多かっただろう。新井選手の頑張りを否定するつもりはないが、正直、経営者・上司が下す判断の難しさを感じざるを得なかった。

スタート直後の転倒ということもあり、そのダメージは明らかだった。同校の奈良修監督は「難しければ棄権してもかまわない」と伝えたといわれているが、選手を止めることはなく、レース後、「棄権しなかったのが良かったのか分からない」と答えている。

どちらの立場となっても、瞬時に判断を下すのは難しい場面ではあった。選手からすれば、スタート直後ということもあり、何とかカバーしなければと痛みを堪えて走るのは当然だ。1区で棄権となれば残り9区間の選手やサポートに回った部員のことを考えれば、自ら走れないとは言えなかっただろう。

監督からすれば、他の部員のことを考え、何とか記録は残したいという思いになる。さまざまな関係者からの過度な期待というプレッシャーを考えれば簡単に止める決断ができないのもわからなくもない。ただ、指導者として競技に熱くなるなかにも、冷静な判断能力を常に持つことが求められる。

この件に関して、マラソン日本記録保持者の大迫傑選手がツイッターで、選手に対して「捻挫は注意しないと別な故障で繰り返したりして時間がかかるからしっかり治してほしい」と気にかけていた。

そのうえでテレビの実況中継について「選手の転倒は、心配する場面ではあるけど、感動する場面ではない。感動的実況を良しとしてしまうと、回り回って選手の判断を鈍らせてしまう」。さらに自分に置き換えると「どんなひどいけがであっても単純にやめにくい。選手はどうやったって走りたいはず。だけどそれを冷静に判断できない環境が今。『感動=選手の健康と成長』でない」と言及した。

今回の件を、スポーツの一場面としてしまうのは危険だ。働き方改革が強く叫ばれているにもかかわらず、まだまだ会社のなかでは「自身が無理をしてでも会社に貢献したい」「仕事を進めるために土日・祝日でも出社する」と考えている社員は少なくない。

確かにこういった意欲は認めるべきではあるが、経営者・上司として、社員が冷静に判断できない状況を作ってはいけないし、また仮にその状況になっているとしたら、それを止められるのは、あなたたちしかいないことを認識してほしい。

<執筆>
アタックス研究員・坂本洋介

2019年1月29日 フジサンケイビジネスアイ掲載
 
 

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