知恵の経営

第203回

会社の黒子に徹する経営者

アタックスグループ 2019年7月2日
 
最近、プロ経営者という言葉を耳にする機会が多い。異なる業界や有名企業での豊富な経営経験を買われ、内部昇格ではなく、外部から招聘(しょうへい)される形で企業トップに就任する経営人のことをいう。

あらゆる業種で経営環境が激変し、競争が激化する中、実績に裏付けられた手腕に加え、社内のしがらみにとらわれない、スピーディーな経営が可能であることから、その存在を求めるケースがある。

こうやって、自らが前面に出て、その手腕で経営を行う経営者がいる一方で、自身が経営者となっても、会社の黒子に徹するトップもいる。筆者が知るその代表格が、長野県伊那市にある伊那食品工業の代表取締役会長の井上修氏だ。同社といえば、現最高顧問の塚越寛氏の存在・経営手腕がよく知られているが、井上氏の経営者・承継者としての覚悟は、まさにプロといって過言ではないだろう。

井上氏は2005年に社長に就任しているが、それ以前は塚越氏が48年連続増収増益の年輪経営を続けており、その事業承継のプレッシャーは相当なものであったはずだ。井上氏は「先代は偉大だ。トヨタ自動車はじめ多くの有名企業が教えを請うほどだ。銀行も取引先も仕入れ先も、新社長は決済力を持たされていない、何もできないと思っている。つらいぞ。世界で一番目立たない社長になるぞ。我慢できるか」と悩み続け、それでも社長になった。

なぜ、その決断ができたのか。井上氏は悩む中、創業者の父親が会長職を退く際に話したことを思いだしたという。それが「つぶしてくれちゃあ、困るでな」という言葉だった。

その言葉で、井上氏は塚越氏から事業承継するのではなく、会社をつぶさないために、自身が良き継承者でありたいと強く思うと同時に、「いい会社をつくりましょう」という社是をエンドレスで追求することこそが、自身の役割と決意した。

そう考えると、自分が目立つ、目立たないは二の次と考えられるようになり、そのプレッシャーからも解放されたという。実際、同社は、井上氏が就任した翌年に、それまで連続していた増収増益が途絶えている。それでも、井上氏は「私が伊那食品工業の48年連続増収増益を終わらせた経営者です」と笑いながら話をする。

多くの経営者が、自身がトップとなったからには、売り上げ・利益をとにかく拡大させたい。新製品・新サービスで自身の存在を高めたいと考えがちになる。やる気は良いことではあるが、それが行き過ぎて空回りするケースも少なくない。

そんな中で、企業永続のための黒子としての役割を果たしているその姿は、経営者とはどうあるべきかを模索する方の大きなヒントとなるだろう。

<執筆>
アタックス研究員・坂本洋介
2019年7月2日フジサンケイビジネスアイ掲載
 
 

プロフィール

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顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


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