知恵の経営

第215回

着物の面倒を楽しむ会社は、なぜ成長発展を遂げることができたのか

アタックスグループ 2019年10月8日
 
新潟県十日町市で、着物総合加工業を営む「きものブレイン」。1976年、現代表取締役の岡元松男氏が、絹織物や着物の産地だった同市で呉服販売業を創業したのが始まりだ。事業は始めたものの、着物が高価なため汚したくないので、着るのを控えるといった状況に陥っていることに気付き、このままでは日本人が着物から離れてしまうという危機感を強く抱いた。

80年当時、呉服小売市場は今の6倍を超える1兆8000億円。業界は、客が着物の汚れを気にし潜在的にアフターケアを求めていることに気付かなかった。しかし、岡元氏だけは「着物の汚れを落としてほしい」という声に気付いた。そこで83年、業界初となる「きものアフターケア」を掲げ新事業を開始したが、業界の誰も客のニーズに気付けておらず、厳しいスタートを強いられた。バブルが崩壊し売り上げが落ちて来ると、業界もアフターケアに耳を傾け始めた。岡元氏の先見力が功を奏し、事業は成長し始める。

では、なぜここまで成長発展を遂げることができたのか。まず1つ目は、岡元氏が業界の常識を疑う顧客視点を持っていたことが挙げられる。売る側は着物が売れていたこともありアフターケアの必要性に気付かなかった。一方、買う側は、着物のシミや黄班で困っていたが、持っていく場所がなかった。そのため、「大切な着物だから汚したくない。大事な時にしか着れない」と思い込み、着るのを控えていたのだ。この乖離(かいり)にいち早く気づいた。

2つ目はトータルケア。アフターケアを進めていく中で、次々と新機軸を打ち出していった。着物の汚れを落としているうちに、初めから汚れが付きにくい加工にした方がよいと考え、着物を仕立てる前のビフォー加工を始めたり、信州大学繊維学部との共同研究で、絹織物を水洗いできるように加工した新素材「ふるるん」を開発した。さらに、着物を1人で着ることができない人向けに、1人でも簡単に着ることができる仕立てを企画するなど、着物を、気軽に誰にも着てもらうため、着物に関するあらゆることをケアするトータルケアにたどり着いた。

3つ目は、着物のトータルケアをするため、修正から縫製まで自社内で一貫加工ができる日本唯一の規模の工場を建設した。加工の主要な部分は全て内製化し、品質・納期・価格において客に満足いただけるサービスが可能となり、それが大きな差別化要因となっている。

きものブレインは、着物をもっと頻繁に気軽に着たいという、客の真のニーズに対応し続けることで高い評価を得てきた。着物のトータルケアを通じ、「着物の面倒を楽しむ会社」という市場を築いた。

<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明
2019年10月8日フジサンケイビジネスアイ掲載
 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


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