知恵の経営

第266回

存続するためにやむを得ないと言いながら… 「リストラ相談お断り」

アタックスグループ 2020年8月25日
 
経営学者・元法政大学大学院教授人を大切にする経営学会会長・坂本光司


業績が低下したり、赤字経営が余儀なくされたりすると、希望退職者を募集したり、協力企業に大幅なコストダウンなどを強いたりする企業が少なからず存在する。企業を存続するためにやむを得ないと言いながら、自身の報酬は減額せず、その後も居座る経営者も多い。


こうした経営者がリーダーである企業が、長期にわたって繁栄した歴史はない。一時は業績が高まったとしても、誠実な社員をはじめとする関係者が、次第に組織に嫌気がさし組織を見捨てるからである。


これは筆者がよく言う「正しき経営は決して滅びないが、欺瞞(ぎまん)に満ちた経営はやがて滅びる」である。「やがて」がくせ者で、「茹(ゆ)でガエル現象」ではないが、正しい経営に気がついたときには終わりである。


都合が悪くなると、リストラを強いる企業は、経営者が最も罪深いが、同様に問われなければならないのが、金融機関や再建を依頼された経営コンサルタントである。人減らしや下請けいじめを助長するようなアドバイスを平気でするからである。


金融機関や経営コンサルタントが、経営者に対し「まずは、あなたの報酬を大幅に減額しなさい」とか「蓄えてきた内部留保金を取り崩して、社員とその家族の命と生活を守りましょう」とアドバイスしたならば、リストラされて路頭に迷う人々は大幅に減少するはずである。


こうした真っ当なことを進言できない金融機関や経営コンサルタントが多いのは、いまだ「業績重視・勝ち負け重視」の経営学が主流だからである。それを助長するようなMBA(経営学修士)教育や中小企業診断士試験が行われていることも問題である。もとより全てではないが、金融機関や経営コンサルタント諸氏が、担当企業から契約解除されることを恐れていることも大きい。


こうした中、これぞあるべき経営コンサルタントと筆者が高い評価をしている方々も少なからずいる。その一人が宮崎県の「K事務所」の所長である。


まず驚くのが、事務所に入り相談室のテーブルのプラスチックボードの下の1枚のメモ用紙である。そこには大きな文字で「リストラ相談お断り」と書いてある。その目的は、「決してやってはいけないことを応援するような事務所ではありたくない。スタッフに心痛むような書類はつくらせたくないから」という。


筆者が「相談者の反応はどうですか」と聞くと、「かつては、相談に来られた方で、相談室に女性スタッフが通し、所長であるK氏が行くと、いなくなっていたというケースもありました。今はそういう相談者はいませんし、いたとしても、人を大切にしなさいとアドバイスをします」と話してくれた。経営コンサルタントの鏡である。




<執筆> 
経営学者・元法政大学大学院教授人を大切にする経営学会会長・坂本光司
2020年8月25日フジサンケイビジネスアイ掲載
 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


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