■インプット・アウトプット均衡保つ
著名なデザイナーのもとで経験を積み、31歳で独立した阿部岳さん。独立前の20代の頃は、夜9時頃に仕事を終え、バイト先で明け方まで別のデザインの仕事をし、そこからまた出社する日々を過ごしていたという。40代後半となった今、以前のように働くことはできないと言いながら、北海道から九州まで飛び回る忙しい日々を過ごしている。
--自己管理とは
「テーマはいろいろありますが、一つはインプットとアウトプットのバランスを保つこと。元々、企業のロゴマークデザインを多く手掛けていました。クライアントはお菓子屋さんからバスケットボールチームまでさまざま。ロゴが印刷される商品パッケージ、その商品が陳列される店舗自体、といった流れでデザインを担当する範囲も随分広がっていきました。デザインはサービス業ですが実は製造業と同じように“原材料”が要ります。広範な仕事に対応するためには、自分の中に多くの引き出しを持ち、原材料となるアイデアや情報をたくさん用意しておく必要があります。センスや才能だけではまかない切れません。デザインに必要なのは経験や努力の積み重ね。持って生まれたものなんて、すぐ消費してしまう。こうした考えから、アウトプットばかりでなく、インプットもバランスよく行うよう注意しています」
--どうインプットするのか
「30代半ばまでは、とにかくたくさんのものに触れようと考えていました。美術館に行ったり、映画を見たり、旅行に出掛けたり。しかしやみくもに色々なものに触れているだけではいけないと、徐々に考えるようになりました。自分の時間は限られていて、自由になる時間は年を追うごとに少なくなる。そもそも、本当に必要なものは実はそれほど多くはない。30代の終わり頃から『自分にとって本当に必要なインプットは何か』を注意深く考えるようになりました」
--最近のインプットは
「主に、日々の仕事の中にあります。アウトプットしながらインプットを見つける、あるいは生み出すことができるようになってきました。あまり意識しなくても自然とバランスを取ることができるようになってきています」(次回につづく)
【プロフィル】阿部岳
あべ・がく グラフィックデザイナー、ガクデザイン代表。武蔵野美術短期大学から小島良平デザイン事務所を経て独立。2008、12年にグッドデザイン賞受賞。