第97回
中小企業に「巨大な未掴」が訪れる?
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤伸夫

生成AIの発展・普及により「非人間脳力活用」による産業革命が進展して全ての人に未掴が到来している中、AIは大企業への追い風だと考えられていると感じます。
しかし筆者はこれからの時代に、中小企業にも歴史的な追い風が吹く可能性があると考えています。但しこれは、中小企業なら誰でも恩恵に与れる「未来」ではなく、掴もうとする者しか恩恵に与れない「未掴」である可能性があります。今回はこのことについて考えます。
中小企業の歴史的なポジション
歴史的に見て、中小企業の役割はどのように進展してきたか。本コラム2019年7月4日付第6回「中小企業5.0」で以下のようにまとめています。
https://www.innovations-i.com/column/ctf/6.html
・唯一無二の経済主体としての役割(中小企業の役割1.0)
・大企業と主人公の座を争う経済主体としての役割(2.0)
・大企業へのサポーターの役割(3.0)
・ニッチ補填の役割(4.0)
・大企業と人を繋ぎ真の満足・幸福を実現する役割(中小企業の役割5.0)」
20世紀の最終四半世紀は大企業による大量生産が進展、電化製品など様々な財が人々に入手可能となりました。その頃の中小企業は下請け企業として大企業をサポートする3.0です。
しかしそれが一巡すると、大量生産品だけでは生活の潤いや楽しみが足りないと感じる人が出てきました。大企業は社員(特に間接部門やマネジャー)が多いため損益分岐点が高いため対応できません。大企業の産品を使わないと割高になりますが、そのニッチな需要に中小企業が対応するようになる4.0に移行しました。
「私の生活スタイル、好みに合う製品・サービス」への需要は、GDPが伸び悩むデフレが続いた日本では実感しにくいのですが、GDPが大幅に伸長するインフレを謳歌した諸外国では如実に高まりました。
その需要に大企業がIT関連をはじめとした一部製品で新しいアプローチを提供しました。「カスタマイズできるポテンシャルを込める」あるいは「自由に組み合わせられる関連商品を用意する」アプローチによる疑似的オーダーメイドです。但し、その他の工業製品では大企業によるオーダーメイドが難しく、需要が満たされない状況でした。
5.0は顧客と大企業を繋ぐ安定したポジションの時代?
2019年時点は中小企業の役割4.0をベースに5.0にも足を踏み入れるタイミングだったと感じています。それから7年、5.0が広がってきました。大企業の製品がますますプラットフォーム化したからです。
スマートフォンは、外見は同じでも好みのアプリケーションをインストールすることで「私の生活スタイル、好みに合う製品」に近づきました。「大企業が標準化されたプラットフォームや製品を提供、中小企業が個別最適化・導入・調整・運用・体験設計を担う」という構図は生成AIからAIエージェント、フィジカルAIひいてはエージェンティックAIの進展で加速度的に普及すると考えられます。
これは何を意味するか?4.0時代では大企業と中小企業は棲み分け、中小企業がニッチに対応していました。小粒ゆえに固定費が少なくて済むため小ロット対応できる、顧客との距離が近い、地域密着できる、専門性を深掘りできる、意思決定が速いなどの特性を持つ中小企業しか、オーダーメイドができなかったのです。それに対応できる中小企業も限られていたというのが実態でした。
しかしプラットフォーム採用で疑似オーダーメイドに対応できるポテンシャルを秘めた製品・サービスが増えたことで、4.0時代よりもはるかに多くの人々が「私の生活スタイル、好みに合う製品・サービス」にアプローチできる可能性があります。
今後は中小企業が一方でユーザーと繋がり他方で大企業と繋がることで、様々な生活スタイル・好みに合うようカスタマイズされた製品・サービスを提供することが可能になるでしょう。ベースは大企業の大量生産品なので価格は4.0時代よりも抑えられ、需要が大幅に増えると考えられます。つまり、対応する中小企業が格段に増える余地があるということです。
中小企業の役割5.0時代は実は、中小企業にとって久しぶりの「安定時代」になる可能性があります。中小企業は産業革命前、市場・顧客と安定した関係にありましたが、19世紀末以降は大企業との拮抗関係や補完関係、あるいはニッチの探求という不安定な状況に陥りました。
しかし5.0時代は大企業が標準製品を作り続ける限り中小企業への個別最適化需要が継続、市場・顧客と大企業の間にあって繋げるという安定的なポジションを得られる可能性があります(一方で技術革新等への対応は流動的)。但しそのポジションは全ての中小企業には開かれず、掴もうとする者しか得られない未掴だと考えられます。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
<印刷版のダウンロードはこちらから>
https://www.innovations-i.com/panf/id/?id=861
【筆者へのご相談等はこちらから】
https://stratecutions.jp/index.php/contacts/
なお、冒頭の写真は ChatGPT により作成したものです。
プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。
独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。
現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。
【落藤伸夫 著書】

『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions
- 第97回 中小企業に「巨大な未掴」が訪れる?
- 第96回 非人間脳力活用時代の構想力
- 第95回 未掴は「構想して掴む」時代になる
- 第94回 生成AIを活用して学問を進化させる
- 第93回 生成AIで学びを発展させる
- 第92回 生成AI得意分野でも人間力を発揮する
- 第91回 常識はあるが良識はないAIを使いこなす
- 第90回 知識増殖者・意味創造者が果たす役割
- 第89回 新産業革命期に生まれる「意味創造者」
- 第88回 新たな産業革命期を乗り越えるには
- 第87回 「新たな産業革命期」を迎える
- 第86回 自ら前提を変えて道を切り拓く
- 第85回 前提が転覆する可能性に備える
- 第84回 前提が覆る時代に生き残る方法
- 第83回 成長エンジンに乗る3要素を固める
- 第82回 成長エンジンに乗る決意を固める
- 第81回 価格理論破壊時代に油断する危険
- 第80回 通用しなくなりつつある経済原則:価格
- 第79回 未掴入口の捉え方
- 第78回 壁とするか、未掴への入り口とするか
- 第77回 生成AIを活用しながら人間力を発揮する
- 第76回 生成AIがもたらす革命的変化に対応する
- 第75回 100億宣言を実のあるものにする
- 第74回 100億宣言企業が募集されています
- 第73回 あいまいさを創造性に繋げる方法
- 第72回 あいまいさに耐えられない危険性
- 第71回 イノベーションの量産でジレンマ回避
- 第70回 イノベーションのジレンマは不可避か
- 第69回 激動の時代に「どのように」始めるか
- 第68回 激動時代に起業家の発想を取り入れる
- 第67回 トランプ関税を乗り越える産業・政策
- 第66回 トランプ関税を考えて今後を見通す
- 第65回 企業が描きたい大戦略
- 第64回 大戦略を描いていくことの大切さ
- 第63回 技術か経営かではなく、技術も経営も
- 第62回 ニッサン・ホンダの破談をどう捉えるか
- 第61回 社会システム変化の軸となる主体性
- 第60回 社会システム視座の必要性
- 第59回 再構築が望まれるエコシステムの姿
- 第58回 突きつけられる課題と、その対応方法
- 第57回 「好ましいインフレ」を目指す取組
- 第56回 「好ましいインフレ」を目指す
- 第55回 地域の未掴をエコシステムとして描く
- 第54回 地域の未掴はどのようにして探すのか
- 第53回 日本の未来を拓く構想と新しい機関
- 第52回 新政権に期待すること
- 第51回 日本ならではの外貨獲得力案
- 第50回 未掴を掴む原動力を歴史的に探る
- 第49回 明治時代の未掴、今の未掴
- 第48回 オリンピック会場から想起した日本の出発点
- 第47回 都知事選ポスターから考える日本の方向性
- 第46回 都知事選ポスター問題で見えたこと
- 第45回 閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」
- 第44回 競争力低下を憂いて発展戦略を探る
- 第43回 中小企業の生産性を向上させる方法
- 第42回 中小企業の生産性問題を考える
- 第41回 資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
- 第40回 「新しい資本主義」をどのように捉えるか
- 第39回 日本GDPを改善する2つのアプローチ
- 第38回 イノベーションで何を目指すのか?
- 第37回 日本で「失われた〇年」が続く理由
- 第36回 イノベーションは思考法で実現する?!
- 第35回 高付加価値化へのイノベーション
- 第34回 2024年スタートに高付加価値化を誓う
- 第33回 生成AIで新価値を創造できる人になる
- 第32回 生成AIで価値を付け加える
- 第31回 価値を付け足していく方法
- 第30回 新しい資本主義の付加価値付けとは?
- 第29回 新しい資本主義でのマーケティング
- 第28回 新しい資本主義での付加価値生産
- 第27回 新しい資本主義で目指すべき方向性
- 第26回 新しい資本主義に乗じ、対処する
- 第25回 「新しい資本主義」を考える
- 第24回 ChatGPTから5.0社会の「肝」を探る
- 第23回 ChatGPTから垣間見る5.0社会
- 第22回 中小企業がイノベーションのタネを生める「時」
- 第21回 中小企業がイノベーションのタネを生む
- 第20回 イノベーションにおける中小企業の新たな役割
- 第19回 中小企業もイノベーションの主体になれる
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
- 第10回 Futureを掴む人になる!
- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
- 第3回 5次元社会が未掴であること
- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!