新規事業開発の勘所

第6回

顧客価値を考える

瀧田 理康 2020年8月7日
 

事業展開におけるターゲットの顧客が定まったら、そのターゲット顧客に価値を提供することでその対価としてお金をもらうことになります。逆にいうと、顧客にとって価値がなければ、その対価としてのお金は得られないのです。こういうと「当たり前だ!」と思われるかもしません。しかし、これをよく間違えてしまっている人がいます。 


ある事業担当者Aさんが、「この製品はすごく貴重な材料を使って、とても軽くて、しかも硬い。世界でこの性能を持つものは他にありません」と顧客の前で製品の説明をしました。これは確かにその商品がとても貴重な性能を持っているという説明にはなっています。しかし、それだからといってそれを聞いている人に何か得になることがあるでしょうか。そのことは説明されていません。つまり、この説明はその商品の特長すなわちフィーチャーを言っているだけなのです。顧客は、自分にとって得になること、すなわちベネフィットがわからなければお金を払ってそれを買うことはないのです。Aさんはこのあたりを明確に区別して、自身で理解し、説明できるようになる必要があります。


顧客にとっての価値、すなわち顧客価値を考えるにあたり、まず、正確に言葉を定義しましょう。そして、これから事業を語るときに、誰に、何を話しているのかを明確に意識してひとつひとつの言葉を正確に選び、話しをする必要があります。顧客価値以下の4つの項目で整理して考えていくと、事業計画書に落とし込みやすくなります。


顧客価値を考えるための4項目

(1) フィーチャー:商品、サービスの特長

(2) 顧客ベネフィット:フィーチャーの中で顧客が恩恵を感じるもの

(3)価格:(顧客からみた)商品、サービスの価格

(4)顧客価値:顧客ベネフィット ― 価格



顧客価値を考える順番としては、まずフィーチャーです。フィーチャーが際立っていればいるほど顧客ベネフィットを提供できる可能性は高まります。しかしフィーチャー=(イコール)ベネフィットではありません。「このフィーチャーがあるから、顧客は何をベネフィットと感じるか」と考えましょう。そしてその顧客が感じるベネフィットがわかったら、そこに価格要素をいれて考えてみてください。顧客が許容できる価格は、そのブランドまたはフィーチャーの違いによって、顧客が払ってもよいと思える価格になります。つまり、顧客がベネフィットとして感じるとしても、顧客が想定している、あるいは受け入れられる限界の価格より、皆さんが提供する製品やサービスの価格が高かったら、それは顧客価値は低くなってしまうのです。このことからわかるように、顧客価値は、顧客ベネフィットと価格のバランスになります。


「この製品はすごく軽くて硬く、競合するものがない新しいものだ。だから高くても売れる」とフィーチャーを定義した場合、その顧客ベネフィットは何かを考えなければなりません。例えば、「このフィーチャーによってきわめて精度の高い穴があけられる」とか、「輸送時に省スペース化を促進できる」などです。顧客が使う際のことを想像してみます。


次に、これはとても難しい作業ではありますが、顧客の価格許容度を調査しなければなりません。このプロセスを無視、あるいは極めて雑にやっているケースがあります。あるいは、本当はわかっているのだけど自分にとってちょっと都合が悪いのであえてぼかしてしまう、というケースもあります。しかし、それでは真の顧客価値は考えられないのです。なぜなら顧客ベネフィットと顧客の価格許容度の差が顧客価値になるからです。


つまり、顧客ベネフィットがある水準に達している内容だったとしたら、価格が安いほど顧客価値があがるといえます。競合がある場合には、競合の顧客価値を同様にして算出し、比較していくのです。


事業をやっていく上で考えなければならないのは、顧客価値を競合より常に高くしておくということです。例えば、市場の価格がこれから先、下がっていくことが予想されるのであれば、自社の価格がずっと同じ水準である場合、顧客価値は競合に対して当然低くなります。つまり売り負けます。しかし、だからといって単に市場価格にあわせて価格を下げたら、今度は収益性が低くなります。そのために何をしたらよいのか、それが課題として浮かび上がってきます。


◆◆◆


「特長」と「価値」を混同してしまっているケースは結構多いと感じています。そうしたことが起きてしまう理由は、価値とは何かについて明確にしようという意図で考える機会が少ないからかもしれません。さらに、特長を言葉にすることは割と簡単にできそうですが、価値を言葉にするのは、顧客に対する想像力も必要で、意外に難しい場合もあるでしょう。


また、事業を展開していくうえで広報を行うことは欠かせない、というのが私たちの考えですが、事業計画段階で顧客価値の言葉が定まっていないと、広報の計画を立てる最初の時点でつまづきます。その場合は、広報活動に必要な情報としての「顧客価値は何か」を整理していきます。


今回のテーマは顧客価値でしたが、事業を計画していくときには、顧客価値に限らず、事業を構成する要素が明確な言葉になっていることがとても大切です。


 
 

プロフィール

株式会社アルゴマーケティングソリューションズ
代表取締役社長 瀧田 理康

東京理科大学卒。自動車関連部材メーカーで、事業企画担当に抜擢され、本部長直下で一人で事業企画を担当。全国の販売会社、子会社と本社との橋渡し、各種会議、社長会、イベントのファシリテーションを行う。軌道にのったところで、社内ベンチャーの立ち上げメンバーに指名され一からやり直し。行ったこともなかったシリコンバレーや欧州への売り込みから工場生産管理まで行い、利益率20%の事業まで作り上げた。独立性が高く事業価値が高かったため、最終的に事業売却となる。アルゴマーケティングソリューションズでは、新規事業開発、広報・PR&販促の分野で技術がわかる点を強みに、BtoB企業のクライアントを広げている。事業売却とそれに至った経験と理論を体系化して、新規事業開発の支援を本格稼働。単なるコンサルティングではなく、最終的に実務を伴うソリューション提供をモットーとしている。

・中小企業診断士、リスクマネジメントプランナー(一般財団法人リスクマネジメント協会)、PRプランナー(PRSJ)
・著書は「新規事業開発」「経営基本管理/マーケティング」(ともに日本マンパワー出版)等
・2020年、「新規事業実務研究会(旧:ステージゲート法実践会)」立ち上げ


Webサイト:株式会社アルゴマーケティングソリューションズ

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