新規事業開発の勘所

第2回

事業推進のためのカギを見つけるまで

瀧田 理康 2020年5月25日
 

新規事業の運営を支援するために、事業をいくつかのステージに分けて考えることを提案しています。ステージとは、簡単にいえば事業の立ち上げから展開にむけて時系列に並んでいるパーツのようなものです。それらのステージとステージの間に「ゲート」、いわゆる関門を設けます。ステージごとにある項目にしたがって、事業の内容が整理されたら、次のステージへ進んでいけるのか、現在位置しているステージの完成度を今一度上げるのかを、予め設定した指標をもとに考えてみるやり方です。 私どもはこれをチェックゲート式メソッドと呼んでいます。


何度も同じステージに戻って、検討し直して次に進むケースももちろんあります。むしろそのほうが多いくらいです。基本となっている考え方は、ステージゲート法(※)で、さらにいくつかの要素をプラスして「事業を育てるロジック」として独自に体系化しました。


このやり方を、ある企業内の新規事業で実践しました。製造業で新規事業をするには、設備投資の意思決定が避けて通れません。いきなり大規模な投資をしても回収できなくなって、いわゆるドツボにはまるのではなく、階段を一段づつ上り、必要になれば必要な投資をしていくべきです。これは誰もが考えることで、特に企業の経営陣はそう考えます。


もしあなたがすでに事業で大成功して有り余るお金を持っていて、これから新しい事業を始めようということであれば、思い切りよくお金を投じるかもしれません。しかし、企業として新規事業を行う場合、投資の元になっているお金は企業のお金であり、株主のお金であり、他の従業員の方々、先輩方が血と汗で稼ぎ出したお金なのです。それを現在の経営者は、いかに無駄にしないで、未来につなげられるか、ということを考えています。


さらに、企業の経営者は独りではありません。事業企画、営業、管理、生産、財務等々いろいろな観点から考えられていて、一人の人のミスリードを防ぐ仕組みになっています。たとえ社長と言えども、周囲の反対を押し切って、自分だけの意見で勝手に進めるわけにはいかないのです。だから、誰が見ても新しい事業がどのようなものであるのか、よくわかるように「見えるようにする(見える化する)」ことが必要なのです。


事業が展開するスピードは、社会の変化に伴ってますます早くなっています。多くのスタートアップ企業が育っているシリコンバレーで、現地大学でのピッチイベントに参加したことがあります。意思決定が瞬時に行われ、その決定を受けたあとのアクションもものすごい速さで行われるのを目の当たりにしました。日本は昔よりはマシになったといわれることもありますが、私の経験では本当に意思決定が遅い、もしくは「意思決定をしない」という意思決定をしているかのように思わざるを得ない状況に何度も直面してきました。


しかし、どちらがいいとか悪いとかということを議論している暇はありません。事業をやっていく(と決めた)人間としては、それぞれの場面で適したやり方を模索して対応していかなくてはならない、というのが私がたどり着いた一つの答えです。


私が企業の中で実際に新規事業をやってきた約20年の間を振り返ってみますと、

例えば100個のなんらかのタスクが存在していたら、常に60個くらいは不条理、不可解、不愉快なことです。担当者としてのミッションは文句を言うことでありません。問題点をまとめて政策提言することでもありません。ただただ「事業を推進」しなければならないのです。そのために、企業の中で意思決定される仕組みを熟知し、そこに適切な手法を講じて結果を得るのです。


方法論はたくさんあります。課題に対して議論を重ねたり、見えてきた問題の芽をなんとか摘み取ったり。そのほかには、たとえば「料亭」で秘密裏に決めてしまうということも。時にはこれらも対処療法としてありかもしれませんが、根本的な解決策になりません。重要なことは、企業の中にいる「組織人」としての考え方、立ち居振る舞いをもって、自分が任された新規事業を推進し、早く成果を出すことでした。そのためには、事業のすべてを見えるように(見える化)して、多くの関係者に短時間で効率よく理解してもらい、「共感してもらう」ことがカギとなったのです。


このことは、私自身最初からわかっていたわけではありません。しかし事業を推進しつづけるという荒波の大航海のなかで、このカギが事業運営にとって常に大きな推進力となってきたことは痛感しています。もちろん実際の日々の営業活動では文字通り、戦い続けていました。毎日が戦場、トラブル対応は日常茶飯事……。そうしていると、このカギ(=共感してもらうこと)なんぞ、「はっきり言ってそんな時間ない!」と思って面倒に感じることも正直ありました。


だから、冒頭で述べたやり方で、できるだけ短時間で効率よく、しかし適切に事業を見えるようにできれば、「共感してもらう」近道になると考えたのです。そうすることで、事業推進がより早くうまくいくと実感してもらえると確信しています。自分でいうのも気が引けますが、これ(チェックゲート式メソッド)は企業内の新規事業でも、スタートアップ企業でも充分使っていただける、便利でわかりやすいものにできました。このやり方を一社でも多くの企業に伝えることで、日本の中小企業が強くなっていくようにしたい。世界から引き合いがくるようにしたい。それが今の私の大きな目標となっています。


※1980年代にカナダのロバート・クーパー教授が開発。多くの製品や技術開発テーマを効率的に絞り込んでいく方法論といわれている。

 
 

プロフィール

株式会社アルゴマーケティングソリューションズ
代表取締役社長 瀧田 理康

東京理科大学卒。自動車関連部材メーカーで、事業企画担当に抜擢され、本部長直下で一人で事業企画を担当。全国の販売会社、子会社と本社との橋渡し、各種会議、社長会、イベントのファシリテーションを行う。軌道にのったところで、社内ベンチャーの立ち上げメンバーに指名され一からやり直し。行ったこともなかったシリコンバレーや欧州への売り込みから工場生産管理まで行い、利益率20%の事業まで作り上げた。独立性が高く事業価値が高かったため、最終的に事業売却となる。アルゴマーケティングソリューションズでは、新規事業開発、広報・PR&販促の分野で技術がわかる点を強みに、BtoB企業のクライアントを広げている。事業売却とそれに至った経験と理論を体系化して、新規事業開発の支援を本格稼働。単なるコンサルティングではなく、最終的に実務を伴うソリューション提供をモットーとしている。

・中小企業診断士、リスクマネジメントプランナー(一般財団法人リスクマネジメント協会)、PRプランナー(PRSJ)
・著書は「新規事業開発」「経営基本管理/マーケティング」(ともに日本マンパワー出版)等
・2020年、「新規事業実務研究会(旧:ステージゲート法実践会)」立ち上げ


HP:株式会社アルゴマーケティングソリューションズ

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