第57回
観光客増で地価高騰でも「消滅可能性自治体」?
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
2026年の都道府県地価調査(基準地価、7月1日時点)が9月15日に公表された。全国の全用途平均は前年比1.5%の上昇で、上昇は5年連続となった。住宅地は同1.0%、商業地は同2.9%の上昇で、上昇幅は拡大している。ただし、これはあくまでも平均の話。平均は大都市圏がけん引する形で上昇している格好だ。
ちなみに静岡県では、全用途平均が同0.2%の上昇で、上昇は2年連続。住宅地の平均は同0.1%の下落。これは18年連続の下落だ。一方で、商業地は同0.9%の上昇(上昇は3年連続)、工業地も同0.8%上昇(同5年連続)となった。静岡県は全国ほどの上昇力はないものの、商・工業地を中心に回復傾向が続いていることがうかがえる。県は「商業地では観光客でにぎわう地域や人の回遊性が高い地域、工業地では交通利便性の高い物流関連地域などで需要が強い」と説明している。
市町別の商業地平均では静岡市が1平方メートルあたり32万2000円で県内トップ。熱海市が同23万5400円、三島市が同23万4500円、浜松市が同14万7700円と続く。平均値で見ると、県都(県庁所在地)である静岡市が際立つ一方、熱海の存在感が急速に高まっているといえそうだ。
県内の商業地で最高価格となったのは、静岡市葵区の中心市街地、呉服町通りの一角だった。この地点は同152万円で、前年の同148万円から2.7%上昇している。JR静岡駅から中心商店街へ延びる県内屈指の商業地域となっている。
2位は浜松市中央区鍛冶町の地点で同69万3000円。前年の同65万1000円から前年比6.5%上昇した。浜松は県内最大の都市で上昇率も大きかった。それでも、静岡市の最高地点は浜松の最高地点の約2.2倍に達する。
浜松ではJR浜松駅周辺を中心に商業地の再評価が進んでおり、上昇率では静岡市を上回る地点も目立つが、絶対的な価格水準では静岡市中心部との差は大きい。
全国の同規模の政令指定都市との比較では、新潟市中央区の最高地点が同65万9000円、熊本市中央区が同248万円、岡山市北区が同206万円だった。調査時点や地点条件が異なるため単純比較はできないが、静岡市の同152万円という価格は、新潟市を大きく上回る一方、熊本・岡山の中心商業地より低い水準にある。
◇
そんな中で、興味深いのは熱海市の動向だ。
商業地の市町別平均変動率は前年比11.7%で県内トップ。最高地点である田原本町の地点は1平方メートルあたり35万円となり、前年の同29万4000円から19.0%もの上昇を記録した。2位の銀座町も同30万円で16.7%上昇している。熱海の地価上昇は一地点だけの現象ではなく、中心市街地全体に広がっている。
この背景にあるのは観光需要の回復だ。国や県の調査だけでなく、不動産鑑定でも観光客数の増加、新規ホテルの建設、首都圏法人などによる商業地需要の強さが指摘されている。一方で、熱海は山と海に挟まれ、平坦な土地が少ない。この「供給の少なさ」と、観光地としての需要増が重なり、土地価格を押し上げているのだ。
ただし、熱海市には特有の悩ましい課題がある。地価が上がり、観光客が戻っているのに、人口は減少を続けているのだ。2025年の熱海市人口は3万3000人前後で推移。市も人口減少が続く中で単身世帯や子育て世帯向けの住宅が不足していることを課題として挙げる。
この推移は極めて深刻で、2024年には人口戦略会議が熱海市を「消滅可能性自治体」だと分析している。熱海市は「20~39歳の女性が2020年から2050年までの間に50%以上減少する」と推計された自治体に該当。静岡県内で唯一、自然減対策と社会減対策の双方が極めて強く求められる「特に深刻」なグループに分類されている。
高齢化と若年層の少なさが際立つ熱海市は、2023年時点の高齢化率が48.6%となり、全国平均29.1%を大きく上回っている。人口減少の中心が自然減にある一方、観光地としての熱海には交流人口が流入するという、住民人口と観光人口の大きなギャップが生まれている。
熱海の場合、「地価が上がっているから地域も元気になっている」というわけではないのだ。むしろ観光・不動産需要の高まりを、若い世代の仕事、住宅、子育て、定住にどう結びつけるかが焦点になる。熱海市も、観光消費の拡大だけでなく、若者の雇用創出、移住・定住、住宅政策、空き家活用などを掲げている。
今回の基準地価は、静岡市の「都市としての集積」と、熱海の「観光地としての需要」という二つの強さを示した。一方で、その熱海が県内でも人口問題の深刻な自治体であることは、地価という経済指標だけでは地域の将来を測れないことを示している。土地の値段が上がることと、そこに住み続けたい若者が増えること。その二つをどう結びつけるかが、これからの熱海市と静岡県に突きつけられた課題である。
そして、こうした課題は熱海に限ったことではないかも知れない。あなたの住む地域、好きな街はどうだろうか。
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