駒井研司が聞く プロの自己管理術

第2回

回り道しないといけない 矢内文章さん(2)

駒井 研司 2013年10月7日
 

 進学校から東京学芸大学に進み、在学中に俳優座に参加して以来、演劇の世界で生きてきた矢内文章さん。俳優としてのキャリアを重ねる中で限界を感じ、一度全部辞めてしまうという決断に至りました。

 --なぜ辞めようと思ったんですか?

 「このままではいつか行き詰まるなと思ったからです。打ち破れない壁のようなものを感じていました。30代半ばになり、10年以上のキャリアもできた。でもふと気が付くと、いつもうまいこと70点くらいを取りにいっている自分がいる。100点を取ることもなく、かといって『0点でもいいや』と思い切ることもできず。子供の頃は、すごく優秀というほどではないけれど、いつもそれなりの成績はとっていました。形式とルールを把握し、反復練習をし、思考をパターン化する。そんな日本的な教育にまみれ、染まってしまっていたんですね。芝居では、自分の中に蓄積されたものが表現に出てくる。そして僕には、こんなものが蓄積されている。並大抵のことでは打ち破れない。回り道をしないといけないと思ったんです」

 --すごい決断ですね。辞めてからは何を?

 「主に大工仕事です。学生時代からお世話になっていた知人に仕事をもらい、アンティークに特化した内装工事をしていました。失敗すると『ばかやろー!やり直しだ!』と怒鳴られる世界。そこでふと、失敗したらやり直せばいいんだと分かったんです。間違って木を切ってしまったら切り直せばいい。時にはつなぐことだってできる。そしてアンティークの仕事だったこともあり、下手な手仕事を『下手だけど、まあこれも味かな』と言ってくれるお客さんもいる。2年ほどのこうした経験の中で、自分の考え方や感じ方が変わってきていることに気が付きました。何というか、自分の言葉で考えられるようになったという感覚です。そして、今なら自分なりの芝居を生み出すことができると思えるようになりました。ただ、あまりに大きなステップだったので『大丈夫、俺?』と自分に問いかけてみる必要があり、大阪から東京まで自転車をこいでみました。4日間で500キロメートル。そして2008年、37歳のとき、団体を設立し、創作を始めました」(つづく)

【プロフィル】矢内文章 やない・ぶんしょう 演劇団体アトリエ・センターフォワード主宰。演出家・劇作家・役者。42歳、東京都出身。9作目となる最新作は、東京で11月に上演される。

2013年10月7日「フジサンケイビジネスアイ」掲載
 
 

プロフィール

株式会社ネオレックス
CEO 駒井研司

こまい・けんじ 自己管理のためのiPhoneアプリ「MyStats」(マイスタッツ)発案者。

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