駒井研司が聞く プロの自己管理術

第1回

分かってもらうことの大変さ 矢内文章さん(1)

駒井 研司 2013年9月30日
 

 「自分が客席に座っているということを忘れてしまう」-。演劇に没頭して、久しぶりにこんな体験をしました。昨年、原発問題を主題とした「『F』ト呼バレル町」を見たときのこと。こうした素晴らしい作品を劇作家、演出家、そして俳優として生み出している矢内文章さん。その多様な役割を一体どうやってやりくりしているのか? ぜひ聞きたいと思い、インタビューをお願いしました。

 --まず、演劇に関わるようになった経緯を教えてください。

 「大学時代の塾講師のアルバイトで『分かってもらうのって大変だな』と感じたことがきっかけで“表現すること”に興味を持ちました。最初は殺陣の教室に入り、そこから劇団を紹介され、俳優座の研究生になり…。実はずっと、サッカー選手になることが夢だったんです。高校のときは東京の地区選抜に選ばれて、ジュビロ磐田の監督になった森下(仁志)とも一緒にプレーしていたんですよ。プロにはなれませんでしたが、マラドーナやプラティニの、小気味良いパス回しや立体的な空間の使い方に憧れた感覚は、舞台の上での今の表現につながっています」

 --塾講師がきっかけとは意外ですね。俳優として、これまでにどんな仕事を?

 「映画『きけ、わだつみの声』(東映)や『亡国のイージス』(松竹)、サッポロビールのテレビCMなどに少し出演したりもしましたが、メーンはずっと舞台での演劇です。『BENT』など、世界的な演出家のR・A・アッカーマンの舞台に何度も出演できたことは、その後に大きく影響しています。彼の演出はとてもダイナミックで、よどみがない。また、日本の役者は感情を表現しようとしますが、アッカーマンは動詞で考えろという。『悲しい』ではなく『聞いて』とか『許して』を演じろということです。あと、人の配置などによって“絵をつくる”ときの美的センスが素晴らしい。自分の知っている芝居とは全然違うものと感じました。こうして、30代前半に集中的に貴重な経験をすることができたのですが、一方で、大きな壁を感じるようにもなっていました。そしてあるとき、その壁を打ち破るために、一度全部辞めてしまおうと決心したんです。35歳のときでした」(つづく)

【プロフィル】矢内文章 やない・ぶんしょう 演劇団体アトリエ・センターフォワード主宰。演出家・劇作家・役者。42歳、東京都出身。9作目となる最新作は、東京で11月に上演される。

2013年9月30日「フジサンケイビジネスアイ」掲載
 
 

プロフィール

株式会社ネオレックス
CEO 駒井研司

こまい・けんじ 自己管理のためのiPhoneアプリ「MyStats」(マイスタッツ)発案者。

このコラムをもっと読む 駒井研司が聞く プロの自己管理術

同じカテゴリのコラム

キーワードからコラムを検索する