第81回
外国人駐在員が安心するために企業が知るべき日本の相続税
朝日税理士法人 執筆
外国人社員を日本に派遣する外国法人にとって、駐在員の所得税や住民税を企業がどう負担するかは重要な課題です。しかし、それだけではありません。
「もし私に何かあったら、母国の家族は日本の高額な相続税を払わないといけないのでしょうか?」 これは、実際にスイス法人から日本への派遣を控えた外国人駐在員の方が打ち明けてくれた不安の声です。遠い異国の地での「万が一」に備える税金の問題は、駐在員本人だけでなくご家族にとっても想像以上のプレッシャーとなります 。
このブログでは、多くの外国法人が見過ごしがちな「外国人駐在員の相続税問題」に焦点を当て、企業が事前に備えておくべきポイントについて解説します。
外国人駐在員に相続が発生した場合、課税されるのはどこまで?
日本に駐在する外国人が亡くなった場合、日本の相続税が全世界の財産に課税されるのか、それとも日本国内の財産のみが課税されるのか、不安に思う方も多いでしょう。
結論から言うと、多くの場合、日本国内の財産のみが課税対象となります。
(1)なぜ全世界財産が課税されないのか?
日本の相続税法では、被相続人(亡くなった人)と相続人(財産を承継する人)の居住状況や国籍によって、課税範囲が変わります。
外国人駐在員とそのご家族のいずれも日本国籍でない場合、通常は以下のように判断されます。
被相続人(駐在員本人):相続開始時に在留資格を有し、かつ日本に住所を有していた人、すなわち「居住者」として、通常は「外国人被相続人」に該当します。
相続人(ご家族):駐在員と一緒に日本に滞在しているご家族は、通常「一時居住者」に該当します。これは、相続開始時において在留資格を有し、かつ、相続開始前15年以内の日本での住所期間が合計10年以下である人を指します。
この組み合わせの場合、相続人となるご家族は「居住制限納税義務者」とみなされ、日本国内にある財産のみが相続税の課税対象となります。また、もしご家族がすでに本国へ帰国しているなど、相続開始時点で日本に住所がない場合も、「非居住制限納税義務者」として、やはり国内財産のみが課税対象となります。
(2)企業が事前に備えておくべき3つのポイント
多くの外国人駐在員の方々と接してきた経験から、彼らが安心して職務に専念するためには、外国法人として、次のようなサポート体制を整えることが不可欠だと感じています。
駐在員への情報提供:日本派遣前に、日本の相続税制度について基本的な情報を提供し、万が一のリスクを認識してもらうことが重要です。不安を抱えたまま赴任することがないよう、事前に透明性の高い情報を提供しましょう。
専門家への相談体制の構築:相続税は個別の状況によって判断が異なることもあるため留意が必要です。また、日本の税制だけでなく、駐在員の母国に相続税があるか否か、日本との間に租税条約が締結されているかどうかも、二重課税を避けるためにも確認が必要です。駐在員やご家族が疑問や不安を感じた際に、いつでも相談できるよう、相続税に詳しい専門家(税理士など)との連携体制を構築しておくことが有効です。
福利厚生の見直し:万が一の事態に備え、駐在期間中の生命保険等の活用を検討するのも良いでしょう。日本と本国での保険制度の違いも踏まえ、駐在員とご家族が安心して生活できる環境を整えることが大切です。
外国人駐在員の日本への出向は、企業にとっても社員にとっても大きな一歩です。所得税や住民税だけでなく、相続税についても目を向け、想定外のリスクを未然に防ぐための準備が不可欠です。駐在員が安心して業務に専念できる環境を整えることが、外国法人のグローバル戦略を成功させる鍵となるでしょう。
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