第80回
見落としがちな海外子会社への貸付で生じる「遅延損害金」の税務リスク
朝日税理士法人 執筆
グループ会社間での資金の貸し借りは、経営効率を高めるために日常的に行われています。ところが、海外子会社への貸付において“ある条項”を見落とすと、税務調査で思わぬ指摘を受けることがあります。特に返済遅延時に遅延損害金を請求しない場合、寄附金とみなされるリスクが生じます。
今回は、契約書テンプレートに含まれる遅延損害金条項の見落としに焦点を当てます。
1.税務当局が注目する「遅延損害金」条項とは?
国外関連者への貸付にあたって、多くの会社は「契約書の作成」「資金使途の明確化」「適正な金利」に注意を払っていることでしょう。しかし、契約書に遅延損害金に関する条項が含まれているにもかかわらず、返済期日を過ぎてもその請求を怠っているケースが見受けられます。
税務調査官は、こうした状況に対し「契約書に遅延損害金が明記されているのに、なぜ請求しないのですか?」と切り込んでくる可能性があります。国外関連者との貸付では、契約書の一般的なテンプレートをそのまま使用したために、その条項があること自体を認識していないことがよくあります。この「無意識」こそが、税務上の大きな問題を引き起こすのです。
2.遅延損害金を請求しないと「寄附金」と見なされる理由
税務調査では“意図”より“実態”が問われます。
・契約書は客観的な証拠: 契約当事者が署名・押印した契約書は、法的に有効であり、その内容すべてを承諾したことの客観的な証拠となります。テンプレート利用であっても、契約内容の責任は免れません。
・権利の放棄は「寄附」と見なされる: 遅延損害金を受け取る権利があるにもかかわらず、その権利を行使しない行為は、相手に経済的な利益を無償で提供していると見なされます。税務当局は、これを「経済的合理性を欠く行為」として、寄附金と認定される場合があります。
3.追加課税リスクの具体例
税務調査で遅延損害金の不請求を指摘されると、以下のような税負担が発生する可能性があります
・収益計上漏れ: 本来受け取るべきだった遅延損害金が収益として加算され、その分に対する税負担が発生します。
・寄附金として全額が損金不算入となる:遅延損害金を放棄した行為が国外関連者に対する寄附金と見なされる可能性があります。国外関連者に対する寄付金は、その全額が損金として認められません。
4.実務で見直すべき3つのポイント
海外子会社に資金を貸し付けている場合、以下の点を今すぐ確認しましょう。
・契約書の遅延損害金条項を再確認: 金利や返済期日だけでなく、遅延損害金条項があるか、その利率が適正かを確認しましょう。
・契約上の条項と実務の整合性の定期的な確認: 返済期日を過ぎていないかを確認し、もし遅延している場合は、遅延損害金を請求するか、正式な「返済期日変更の覚書」を交わしましょう。
・税務専門家への相談: 国外関連者との貸付に関する税務リスクは、移転価格・寄附金・収益認識など複数の論点が絡むため、専門家の助言が不可欠です。
まとめ
グループ企業間の取引は、国内・国外を問わず、安易に考えると大きな落とし穴に陥りがちです。日頃から「契約書通りに実行する」という意識を持ち、意図せず税務リスクを抱えることのないよう、細心の注意を払いましょう。契約書の条項と実務の整合性が、税務リスク回避の鍵です。
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