第75回
【外国法人への支払い時の課題】キャッシュレス時代の源泉徴収義務
朝日税理士法人 執筆
1.外国法人への支払いには、日本の税金が関わることをご存知ですか?
海外のデジタルサービスなど、外国法人が提供するサービスは現代のビジネスに欠かせない存在です。しかし、日本企業がこれらのサービスに代金を支払う際、「源泉徴収」という税務上の義務が発生する可能性があります。
これは、日本企業が外国法人に支払う特定の所得が、日本の税法上「国内源泉所得」とみなされるためです。つまり、支払いを行う日本企業が、税金を差し引いて国に納付する責任を負うことになります。
2.租税条約があれば、源泉徴収は不要とは限らない?
「日本と相手国の間に租税条約があるから、源泉徴収は不要だ」と考える人もいますが、実は、これは必ずしも正しくありません。
租税条約によって源泉徴収税率が20.42%から10%、あるいは0%に軽減されるケースがありますが、そのためには事前に税務署に「租税条約に関する届出書」を提出する必要があります。この手続きを怠ると、軽減税率が適用されず、原則税率である20.42%で源泉徴収しなければならないこともあります。
3.キャッシュレス決済が引き起こす新たな問題
近年、クレジットカードやPayPalなどのオンライン決済サービスを利用して海外のサービス代金を支払うことが一般的になってきています。これらのキャッシュレス決済は便利ですが、源泉徴収制度との間で問題が生じます。
・ 銀行振込の場合: 支払い者が、代金から源泉徴収税額を差し引いて送金できます。
・ クレジットカード等決済の場合: 決済代行会社を通じて、代金の全額が自動的に外国法人へ支払われるため、源泉徴収ができません。
このような決済構造は、従来の税制度では想定されていなかったため、源泉徴収義務を果たすには追加の対応が求められます。
4.源泉徴収すべき「支払日」はいつ?
源泉徴収した税額は、原則として支払った月の翌月10日までに税務署に納付する必要があります。この「支払日」がいつになるかは、決済方法によって異なります。
・ 銀行振込の場合:
送金した日が支払日となります。
・ クレジットカード決済の場合:
クレジットカードの利用日(決済日)が支払日とみなされます。
これは、国税不服審判所の裁決事例においても、利用日をもって外国法人への支払いが完了したと判断されているためです 。口座からの引き落とし日ではないため、特に注意が必要です。
5.税務上のリスクを避けるための対応策
この問題を解決し、税務上のリスクを避けるためには、以下のような対応が考えられます。
対応策1:支払い方法の見直し交渉
可能であれば、銀行振込など、支払額を自社でコントロールできる方法に変更するよう、相手の外国法人と交渉することが考えられます。これにより、源泉徴収税額を差し引いて送金することができ、税務署への納付もスムーズに行えます。
対応策2:契約書の見直し
契約書に源泉徴収に関する条項を盛り込むことが考えられます。これにより、日本の税法に基づき源泉徴収が必要な場合、支払金額から税額を差し引く旨を明確にし、法的な根拠を持たせることができます。
対応策3:税務署への相談
自社で判断が難しい場合は、所轄の税務署に相談し、適切な手続きや対応方法を確認することが不可欠です。税務の専門家(税理士など)の助言を求めることも検討しましょう。
6. 全額を支払ってしまった場合の対処法
交渉がうまくいかず、クレジットカードなどで全額を支払ってしまった場合は、以下の2つのステップで対応します。
立替払い:
自社で源泉徴収税額を計算し、税務署に納付します。この際、会計上は「立替金」や「仮払金」として処理します。
返金依頼:
税金を納付した後、外国法人に対し「日本の税法に基づき、貴社に代わって税金を支払いましたので、その分の返金をご検討いただけますようお願い申し上げます。」と依頼します。
ただし、契約上の根拠がない場合、返金依頼は拒否される可能性もあるため、契約内容や相手との合意を事前に確認しておくことが重要です。
7.キャッシュレス時代の税務リスク管理
国際取引が日常化する現代において、税務リスクへの対応は企業にとって不可欠です。
・ 租税条約の適用に届出が必要であるか検討する。
・ キャッシュレス決済では、源泉徴収が自動でできないことを理解し、適切な準備をする。
・ クレジットカードの利用日(決済日)が源泉徴収義務の発生日であることを認識し、納付期限を遵守する 。
・ 全額を支払ってしまった場合は、立替払いと返金依頼で対応する。
これらの税務上の落とし穴を正しく理解し、適切な対応策を講じることが、自社を守る上で重要です。
日本・ASEANだよりに掲載されている記事はこちらにて確認いただけます。:朝日税理士法人グループ
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