会社千夜一夜

第32回

どんな人材を育てようとしているか

落藤 伸夫 2019年5月13日
 

 史上最長10連休のGWが終わって一週間、だんだんと「平時」に戻ってきたのではないかと思います。新人研修が終わって、今度は新任管理職研修などが始まった企業も多いのではないでしょうか。「やっと今年のプランが動き始めた。しばらく進捗管理しておけば良い。腰を落ち着かせられる」とお考えの人材開発担当者も少なくないと思います。一方で、こんな時こそ考えてもらいたいことがあります。それは「我が社は、どんな人材を育てようとしているのか」という命題です。



意外と考えきれていない人物像

 「育てたい人物像だって?そんなの、毎年立てている基本計画書の一番に定めてあるよ」と言われる方が、多いでしょう。確かに、そうです。一方で、研修に関する打ち合わせをさせて頂く会社でも、以前に勤務していた会社においても、そこで定められた人物像とは「何ができるか」という観点で描かれていることが多いようです。もっと具体的に言えば「どんな作業ができるか」という観点です。


 例えば担当者への研修で言えば「営業の会話術」や「エクセルの使い方」、「会計システムの利用法」、「プログラミング言語」という用語で求める人物像が描かれ、「だから当該テーマの研修を希望する」と話が進んでいきます。管理職向け研修なら「部課長としてリーダーシップが発揮できる」、「部下とトラブルを起こさない」、もしくは「管理業務をそつなくこなせる」との人物像が描かれ、「部長(課長)マネジメント」、「パワハラ防止方法」、「モチベーション・マネジメント」もしくは「人事評価の方法」といった研修を検討することになります。


 一方で、企業が必要としているのはどんな人材でしょうか。担当者とざっくばらんなやり取りをしている中では、「創意工夫を発揮してくれる人材」、「変革や改善の取り組みにおいて率先して、みんなを引っ張っていってくれる人材」もしくは「時には予定通りに進捗しなくてもモチベーションを維持して取り組みを続ける人材」などの語がポンポンと出てきます。「できること」よりも「あり方」が問われているという印象です。



能力ではなくあり方

 「しかし仕方がないではないか。会社は従業員に『あり方』を強制できないし、それに向けた研修も存在しないのだから。」おっしゃる意味、非常に良く分かります。私も会社員時代それを痛感しました。「だからこそ『できること』に注目するのだ。」確かに筆者も会社員時代は同じように感じていました。


 一方で、他人の成長ではなく、自分自身の成長を考える場合、「できること」ばかりに集中したのでは不十分なことにも気がつきました(企業家になった今、特にそう思いますが、会社員であった時代にも同じように感じていました)。担当者時代に「例外案件を処理できる知識を蓄積する」ことを目標とすると、担当者として一番知識を溜め込めば満足して成長がストップします。そこで知識だけでは対応できない案件に遭遇すると、悶々としたジレンマに悩ませられました。


 では、どうすれば良いのか?先例の知識だけで処理できない案件の場合、上司などと相談し、新たなルールも設定しながら処理することになります。ここで「自分は担当者だから、結論を出すのは管理職や法務担当に任せておけば良い」と考えると楽ですが、仕事として面白くありません。一方で、ルール作りプロセスに加わらせてもらい、現場とは全く違った観点でものごとを考えている法務担当者や、普段なら雲の上の存在である部長にも意見を申し述べるとなると、知識だけでは対応できません。「あり方」が肝心なのです。それに、気がつきました。



「あり方」は難しいけれど

 では、「あり方」を向上させていくために人材開発担当として何ができるのか?その答えは、実は筆者も出せていません。企業担当者と「その部分にもチャレンジしていきたい」ということでは合意できますが、実際には「できる」アプローチで考えた研修に落ち着いていきます。


 筆者の場合、自社オリジナル研修(個人向け)として「あり方」向上を図るメニューも設けています。しかし先日に行った説明会では「当該研修を受講したら何ができるのか分からない」との質問を頂きました。「困難な状況でも打開策を見つけ、PDCAを回しながら諦めることなく解決を模索できる人になるために必要な思考・行動習慣が身に付く」と説明しても、「それで身に付く具体的能力を教えて欲しい。それとも、昇進できると約束できるのか?」と更問され、話が噛み合いません。


 では、人事担当者として「どんな人材を育成しようとしているのか」、あり方ベースでの検討は不要かといえば、筆者は強く「否」と答えます。答えが出なくても、いや出ないからこそ、常に意識して自分に問いかけることが必要なのです。「それに何のメリットがあるのか?」筆者は、思考停止に陥る罠から逃れられると考えています。人材開発における最大の罠は「何も問題が生じていないから、現状で大丈夫だろう」との思考停止で、それに陥ると会社全体としての成長が止まってしまいます。そうならないよう是非この時期に「あり方」ベースで人材像を考えてみる時間を取るようお勧めします。    




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プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。

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