会社千夜一夜

第31回

新人研修でカルサバから脱皮する

落藤 伸夫 2019年4月4日
 

 新年度に入り、5月以降の新元号が「令和」と決まりました。4月は、他の年でも「新体制がスタートした」という意識が高まりますが、今年は新元号発表のおかげで、その意識が一層、高まっていると感じます。


 一方で、意外と見落とされがちなのが「新人研修」であると感じられます。毎年、実施している内容が変わらないのです。研修担当者としては「社内向けで手一杯なのに、新人研修までゆっくりと考えていられない」という思いなのかもしれませんが、実はそこで大きな「遺失利益」が発生している可能性があります。今日は、カルサバ計画の実態とその脱却方法を、新人研修を題材に考えてみましょう。



カルサバ新人研修の典型例

 ある企業の新人研修の実例です。そこでは新人研修が事実上、約20年にわたって見直されることはありませんでした。典型的な「焼き直し」カルサバ計画が横行していたのです。


 約2週間にわたって「社会人としての基礎能力(挨拶・電話の取り方などの礼儀作法、席順などの社会常識など)」、「当社の業務内容」そして「当社の業務方法(書類作成や決裁方法、勤怠管理システムの操作方法など)」が教えられました。「社会人としての基礎能力」部分は毎年同じ研修業者に委託され、業務部分は社内人材が講師でした。3年前から5年前までに入社した職員が講師を担当する決まりで、講師に任命された職員は前年度の講師からテキストの写しを入手して使っていました。


 「この研修の、何が悪いのか?適切な研修なら、継続しても問題ないではないか。」はい、私も、そう思っていました。最初にこの研修プログラムを見た時「社会人としての心得から実務の具体的方法まで2週間という時間をかけて教えるとは、新人を大切にしているのだな」と感じたのです。しかし、他で行われている新人研修を見た時に、その思いを改めました。



中小企業向け新人研修に参加する

 ある時に筆者は、中小企業向け新人研修に参加する機会を得ました。複数の中小企業が参加できる研修です。業種・業態が違う企業からの参加が前提なので、業務説明はなく、社会人としての基礎能力に集中した内容でした。特に挨拶や上司に呼ばれて返事をする時には、ハキハキとした声で、キビキビとした動作で対応できるよう、何度も繰り返して練習していました。また、そのような「形」にこだわる大切さが、1日という短期研修ながら、しっかりと時間をかけて教授されていました。



「どのような人材を育てたいか」への強い意識

 筆者がなぜ、その研修から感銘を受けたのか?中小企業向け集合研修が珍しかったからではありません。大きな声の挨拶などにこだわる“地獄の特訓”に通じるからでも、ありません。「どんな人材に育ってもらいたいか」が明確にイメージされ、その実現への想いが強く込められた研修だったからです。


 その研修は複数企業の新人が集まる研修なので、業務研修は含まれていなかったことは、先にもお話ししました。それらは翌日以降、各企業で上司や先輩から教えてもらうことになります。大企業でも、現場の管理職や中堅職員が新人を教えるのは負担ですが、中小企業だと、その負担は高まるでしょう。「今度、我が職場に来る新人は、どんな人かな。気持ちよく教えられる若者だと良いな。教えたことをすぐに実践する意欲のある奴だったら申し分ないな」と、上司や先輩たちは考えていることでしょう。新人社員を、そのような「気持ちよく教えられる」「教えがいのある」存在にしたいという強い想いが、その研修には込められていました。そして受講者の顔つきや声の出し方などから、その試みは成功したと感じられたのです。



「試行錯誤し」「手間をかける」意義

 この出来事から、どんな教訓が得られるでしょうか?「他流試合が良いのだな」それも言えるかと思います。筆者としては、他流試合での研修を行うことも含めて「試行錯誤すること」と「手間をかけること」を勧めたいと思います。


 今まで行ってきた研修の良さや足りないところは、他の研修を試して比較することで初めて明らかになることが多いのです。「社会人としての基礎力」、「当社業務内容」及び「業務方法」を教える研修は、フルラインで学べるメリットがありますが、現場で学ぶ姿勢を養う効果はありませんでした(一方で新人からは「研修で学んだのとは違う仕方で仕事が進められている。どちらが正しいのか」という疑念や動揺があったと聞きます)。そのような盲点に気付き対処する上で、試行錯誤は効果的です。


 それともう一つ「手間をかける」ことも挙げたいと思います。例に挙げた研修には、ある企業から人材開発の責任者が参加していました。お話を聞くとその責任者は、当該研修の運営主体から管理職向け研修を受講した経験があるのと共に、研修内容や新人職員の受講風景・態度・感想文などをもとに、受入先部署をフォローするとのことでした。当該研修で学んだ新人がより効果的にOJTを受けられるよう、調整していたのです。このような「手間」が新人の成長にも、受入先部署のストレス軽減にも効果的なことは、想像に難くありません。カルサバ計画では得られない効果が、試行錯誤と手間から生まれるのです。




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プロフィール

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代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。

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