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会社千夜一夜

第17回

起業家が犯しやすい間違い

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 中小企業支援の仕事に関わっていると、今や、起業者への支援を欠かすことはできません。国も力を入れて起業者を応援しています。一方で、起業者の状況は決して順調とは言えません。統計を見ると多くの企業が起業後数年で廃業に追いやられています。2014年に中小企業診断士として独立した私自身も起業者なので、周囲の起業者をみて同じ感想を持ちます。一人、二人と仲間に会えなくなるのは、とても辛いことです。どうすればこれを改善できるかについて、考えてみたいと思います。



熱意よりも大切なもの

 学校を卒業したばかりの若人でも定年退職した人でも、その中間の中途退職して起業した人も含めて、起業者の皆さんには「自分は『これ』で起業した」という熱い想いをお持ちです。最初は「話して良いのかな?聞いてくれるのかな?」と遠慮がちだった人を含めて、こちらが聞く体勢だと分かるとかなりの勢いで、かなりの時間をかけて、ご自分の事業について説明してくれます。確かに起業には相当のエネルギーが必要となりますから、3時間でも半日でも事業の話ができることは、起業者にとって最大の条件かもしれません。


 

 一方で起業者の皆さんと話をしていると、「誰がお客様なのか」が見えてこないことが少なくありません。起業者が提供する製品やサービスを買おうとする人の顔が見えてこないのです。「自分の知り合いの、あの人だったら、この製品・サービスを喜んで買うだろうな」とのイメージが湧けば紹介もできるのですが、そのイメージが湧かないのです。


 このお話をするといつも思い出されるのは、日本料理店で長年にわたって修行を積んだ料理人のことです。彼は「高級割烹料理店の味を庶民にも知ってもらいたい」と独立して、サラリーマンの聖地とも言える場所で「高級立喰うどん店」を開店しました。志は尊いものがあったと思いますが、半年もしないうちに撤退を余儀なくされます。賃借物件に開設した店舗も原状回復して返還しなければなりませんから、半年ばかりの間に一千万円近い資金が水泡に帰したのです。


 では、なぜこの料理人は起業に失敗してしまったのか?起業に対する熱意が足りなかった訳ではありません。逆に、他の起業者にも稀なくらいの熱量があったと思います。一方で「自分のお客様は誰か」をはっきりと定義することが不足していたのではないかと思います。ターゲット顧客が不明確なため、お客様を喜ばせる製品作り、店舗作りも、お客様を引き寄せる効果的なマーケティング策も、行うことができませんでした。



「お客様」を見定める

 この話をすると、多くの起業者は「仕方がないではないか。自分が提供できる製品を最初に作り出し、次にそれを買ってくれるお客様を探す。そういう順番になるのではないか」と仰います。しかしこの話を儲かっている社長さんにすると「分かるな。お客様が求めるものを提供する。より多くのお客様が求めるものを、より高い値段で求めるものを提供する。私たちは日夜、それを研究している」と仰います。


 両者は、一見すると「富士山の頂上を目指す時に、静岡県側から目指すのか、山梨県側から目指すのか。何れも同じこと」のように思えそうですが、ビジネスという観点では全く別物です。パフォーマンスからすると、後者が正解なのです。



自分が役立てるお客様を考える

 このように言うと「では、自分の周囲にいる人々をお客様にするビジネスを考えれば良いのだな」との声が聞こえてきそうです。実際、特定の商品やサービスを周囲の知り合いに販売するビジネスを考える人もいますが、それはお勧めしていません。それではビジネスの継続性が保てないし、熱意も込めることができない場合が多いからです。先ほど「熱意より大切なもの」があると言いましたが、逆に熱意がなくなってしまったらビジネスは成り立ちません。


 では、どんなお客様を探せば良いのか?それは「自分がお役に立てるお客様」ではないかと思います。自分のキャリアや経験の中で積み重ねてきた知識やスキルを「これは便利だ。役に立った」と言ってくれるお客様を探すのです。



若者向け職業紹介業を始めた若者

 最近に出会った起業者で「よく考えたな」と感心したのは、これまで営業職に就いていた人脈を生かして若者向け職業紹介業を始めた若者です。彼は、クライアントとほとんど同じ年頃なので、若者が就職について何を不安がり、障害に思っているのかをとてもよく知っています。その上で「自分の就職時に、こんなことを教えてもらいたかった。あんなことをサポートして欲しかった」ことを提供できる支援者ネットワークを作った上で職業紹介ビジネスを開始しました。


 彼のケースは、起業を考える上でとても大きな示唆があると思います。「身近な人々に役立てる!」と思うと、熱意を持って仕事に取り組めます。実際に役立てばクライアントがお客様を紹介してくれることも稀ではありません。これを地道に続けることで、ビジネスが回っていきます。起業者の方はご自分が逆のメカニズムを狙っていないか、チェックしてみてください。 




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。また、コラム(本欄)ではコンパクトにまとめたStrateCutionsからのご提案についても、各項目をしっかりとご説明しています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。


印刷版のダウンロードはこちらから

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


Webサイト:StrateCutions

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