会社千夜一夜

第40回

上級マネジメント・チェックリスト

落藤 伸夫 2019年9月2日
 


 ここまで2回にわたり、吉本興業の「闇営業事件」から見えてきた、同社の上級マネジメントに内在する問題について考えてきました。一部の芸人が闇営業に手を染めたことについて、ある芸人が、責任の一端が吉本興業にもあると示唆して泥沼化しました。「闇営業は芸人だけの責任か、会社も責任を取るべきか?」を考えると、答えはなかなか出そうにありません。


 では、この問題に出口はないかといえば、意外とそうではありません。見方を変えれば良いのです。この問題は「上級マネジメントの不在が原因」と考えると、その改善策を検討することができるようになります。「いや、部長は何人かいるぞ、優秀なマネジャーばかりだ」との反論があるでしょう。確かにそうです。しかし、その多くは機能していないと考えられます。日本にMCS(マネジメント・コントロール・システム)が根付いておらず、上級マネジャーの役割が明確ではないからです。


 筆者は2017年〜2018年にInnovationS-iサイトでMCSをベースとする上級マネジメントをご説明するコラムを連載しました。詳しい内容はそちらをご参照頂くとして、今回は、皆さんの会社でも活用できる簡易チェックリストをご説明します。

(上級マネジメントに関する連載コラム)

https://www.innovations-i.com/column/all_article/scmgt2/



戦略浸透・実行

・ 上級マネジャーは、経営理念やビジョンの実現に向け策定された経営戦略(全社戦略)を、適切にブレークダウン(現場戦略)して担当部門に提示しているか

・ 上級マネジャーは、自らが提示した現場戦略の進捗状況・目標達成状況を常にモニタリングして評価し、必要な場合には部下である現場マネジャーに働きかけているか

・ 上級マネジャーは、経営陣が全社戦略をブラッシュアップできるよう、現場に関する情報を適切に提示しているか?


 上級マネジャーの最も基本的役割は、会社の方針を現場が実現するよう中継することです。第2肢で挙げた「働きかけ」は、アクション・コントロール、レリザルト・コントロール、ピーブル・コントロールのうち適切な策を選んで実施することです。



現場マネジャーのマネジメント

・ 上級マネジャーは、配下の現場マネジャーと共に「現場目標・現場戦略」を具体的に策定・提示しているか

・ 上級マネジャーは、現場の働き手が経営理念・ビジョンの実現も視野に入れながら個別目標等を設定するよう現場マネジャーが有効な手段を取っていることを確認しているか

・ 上級マネジャーは、現場の働き手の個別目標等の進捗状況・目標達成状況を現場マネジャーがモニタリングしていることを確認しているか。必要な場合には、部下である現場マネジャーに働きかけているか(前項と関連)

・ 上級マネジャーは、現場の成果を測定・評価して、次によりよい成果をあげられるようフィードバックしているか。PDCAサイクルを回すように促しているか。

・ 上級マネジャーは、現場をモチベーションアップすべく、適切な策を検討し、実践しているか

・ 上級マネジャーは、適材適所と人材の成長を期した人事配置を行なっているか



間接部門を含めた部門間連携

・ 上級マネジャーは、我が部門の目標達成に向けて他部門・部署から協力が必要な場合は、それを要請しているか

・ 上級マネジャーは、他部門・部署から協力要請があった場合には、会社としての目標実現の観点から、できるだけ連携するよう我が部門・部署をとりまとめているか



マネジメント体制の再整備

・ 上級マネジャーは、問題が発生した場合には即座に把握できるよう情報収集の仕組みを整えているか。その仕組みを常に改善しているか

・ 上級マネジャーは、問題が発生した場合には即座に対応できるようマネジメント体制を整えているか。その体制を常に改善しているか



吉本興業をチェックしてみると

 このチェックリストを活用して吉本興業を評価してみましょう。「戦略浸透・実行」では、吉本興業の上級マネジャーは経営理念やビジョンの実現に向けてあまり意識していなかったと考えられます。「現場マネジャーのマネジメント」では、ノルマ達成に向けて現場マネジャーの言動をチェックすることが中心で、経営理念やビジョン実現に向けたマネジメントは行なっていなかったのではないでしょうか。「間接部門を含めた部門間連携」や「マネジメント体制の再整備」では、ほとんど意識が向いていなかったと思われます。このように吉本興業では、上級マネジメントがあまり機能していなかったので、経営陣と現場(芸人)が乖離してしまい、泥沼の議論に発展したと考えられます。


 この状況は、実は吉本興業に特有なのではなく、日本企業の多くが陥っている状況だと思われます。気になる方は採点できるチェックリストを用いて確認してみてください。

(採点のできるチェックリスト)

https://www.innovations-i.com/shien/content/download/98.html




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、コンサルタントの知恵を皆さんの会社でも活用してみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は写真ACから、やまのすけさんご提供によるものです。

やまのすけさん、どうもありがとうございました。


 
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


HP:StrateCutions

このコラムをもっと読む 会社千夜一夜

同じカテゴリのコラム

キーワードからコラムを検索する