会社千夜一夜

第9回

事業承継への消極性が企業の持続力を奪ってしまったケース

落藤 伸夫 2018年5月14日
 

 「事業承継するかどうかは自分では決められない。後継者候補が『会社を継ぎたい』と言ってくれるまで頑張るしかない。彼が会社に失望しないよう、リスクは取れない」とおっしゃる社長さんがおられます。もっともなお話ですが、その方針が会社を倒産に至らせる場合もあります。今回は、そんなケースを検討します(プライバシー保護のため脚色してあります)。


事業承継するかは決められない?

 首都圏でビニール製品加工業を営んでいた中小企業経営者も、事業承継に慎重な姿勢でした。戦後間もなく開業して建設業関連資材・生産関連資材を供給する、ある意味、戦後復興の立役者だったビニールの担い手でした。近年は海外製品に押され気味でしたが、小ロット製品や繊細加工を要する製品の国内需要も少なくありません。事業継続には懸念ないと思われました。

 このため経営者が70歳を超えた約10年前から、金融機関をはじめとした各所から、事業承継を検討するようにとの提案がありました。が、社長は冒頭に述べる理由で事業承継を強く進めていこうとはしませんでした。後継者にと考えていたご子息が「修行のために」と入社した大手企業で出世してゆき、「親父の会社も悪くはないが、今の会社を辞めるほどの魅力はない」と言われたことが堪えたのかもしれません。経営に関してはリーダーシップを発揮する社長ではありましたが、事業承継については消極的と言わざるを得ない状況でした。


「事業承継するかどうか分からない」の呪縛

 「事業承継には消極的でも、経営では積極的ならば良いではないか。企業として成り立っていくのではないか」という意見も少なくないでしょう。しかし、そうはいかないケースもあります。事業承継への消極性が、経営判断における多くの場面で消極性を引き出してしまい、いつの間にか企業の存続を危うくするのです。この企業の場合には、先行投資への消極性がポイントとなりました。「会社に過大な借入金があると承継者候補者は及び腰になるだろう。だから設備投資できない」と考えて設備更新や新技術への対応等を先送りしたのです。最新の設備なら実現できる製品も作れないし、一般的な加工にもコストがかさむようになり、この会社の競争力は低下してしまいました。一旦、このサイクルに陥ってしまうと抜け出すのは困難です。ビニール製造業者として長い業歴と高い技術力を誇っていた輝きは急速にくすんでしまい、結局、廃業を余儀なくされました。


StrateCutionsが提案できるソリューション

 当社は、どうしたら廃業を避けることができたでしょうか?以下、経営者が70歳になった約10年前に相談があった場合の対応を簡単にまとめてみます。

 最初にお伝えするのは「まだ見ぬ承継者に遠慮して事業の持続に必要な投資を行わないことは、実際は自らを滅ぼしているのに等しい」ということです。実際、結果をみればこの通りの事態が起きています。「そうは言っても、そのことを事前に理解するのは難しいのではないか。」仰る通りですね。しかし、廃業せざるを得ない状況は一夜にして起きる訳ではありません。「自社の技術力を信頼して発注してくれたのに、実際には対応できないため断わらざるを得なかった」、「コストにシビアな受注で競合に負けてしまった」、そして「売上が減少し赤字に転落してしまった」という事象をしっかりと受け止めていれば、自社の状況を的確に判断することができます。

 では、どうしたらこの時点で適切な判断を下せるでしょうか?現状は「親族の承継予定者がウンと言ってくれる可能性を残すためリスクは取れない」という「選択肢が存在しない」状況です。選択肢を増やさなければなりません。社員から承継者候補を選ぶこともできますし、他者に売却(M&A)することもできます。廃業も可能です。今この瞬間に廃業するのが得策という結論にならない限りは、親族外承継する場合でもM&Aする場合でも、そして親族承継する場合でも、会社を順調にしておく、つまり儲かる会社にしておくことが得策です。

 「何時までも事業承継の具体的方針を立てずに経営はできないだろう」おっしゃる通りです。このため「事業承継計画」を立てて対応します。「3年後までに魅力的な会社を取り戻す。5年後までに親族か、従業員承継か、M&Aかを決める。承継の場合は10年後に社長を交代する」などと計画するのです。

 本件の場合、計画立案にもう一つの意味があります。魅力的かつ現実的な計画により、後継者候補であるご子息の気持ちを動かせる可能性があるからです。経営者が「魅力的だ」と思わない会社を承継することはできません。まず、現社長が魅力を感じる会社を作る。それが事業承継の出発点となるのです。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。また、コラム(本欄)ではコンパクトにまとめたStrateCutionsからのご提案についても、各項目をしっかりとご説明しています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。


印刷版のダウンロードはこちらから



 
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。

このコラムをもっと読む 会社千夜一夜

同じカテゴリのコラム

コラム検索
新聞社が教える SPECIAL CONTENTS
プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。