会社千夜一夜

第12回

経理の疎さが危機を招いたケース

落藤 伸夫 2018年7月9日
 

 みなさんも「企業経営には経理が不可欠」という言葉、聞かれたことがあるでしょう。「そんな。簿記の知識が会社経営に関係あるとは思えない」とおっしゃる社長さんもおられます。現実に、儲かっている企業の社長さんに話を聞くと、必ずしも簿記に精通している訳ではありません。一方で、儲かっている企業の社長さんはほとんど例外なく「経理」について鋭敏な感覚をお持ちです。「経理」を軽視していると、時には倒産に至るほどのダメージを被る可能性があることを、ご存知なのでしょう。今回は倒産企業ではなく、私が保証審査の現場で出会った、すんでのところで倒産を回避できたケースを検討します(プライバシー保護のため脚色している部分があります)。



ある雑貨店のケース

 私が信用保証協会へ出向していた時のお話です。ある雑貨を専門的に売る商店主(白色申告の個人事業主)が、保証協会の門を叩いてこられました。借入について金融機関に断られたからだそうです。「当店は儲かっているのに、金融機関は融資に『ウン』と言ってくれない」と憤懣やる方ない様子でした。話を聞くと、競合店よりもずっと来店数は多く売上もあがっているようでした。一方で、決算書を見ると利益はほとんどなく、時には赤字の年もあります。それを指摘すると「そうやって、金融機関は決算書ばかり見る。実際に店を見学してみなさい。来店数は多く、売上も上々だから」という答えでした。


 「売上が上々なのに利益があがらない」という現象が生じているのはなぜか?第1に経費がかかりすぎていることや、資金の社外流出が疑われますが、決算書を見る限りでは、そのようなことはなさそうでした。それより原因は粗利の低さにあるようです。同業他社よりもかなり低い数字でした。それを指摘すると「簿記を知っている人は、得意げにそう指摘するけれど、商売をしている者には別の実感がある。当社は儲かっている!」と主張します。確かに、私も知っている商品の売価を聞くと、確かに安いけれど、原価割れになるような価格ではありません。というよりも、それなりの利益を出していてもおかしくない価格です。「そうでしょう。だから当店は問題がないのだ。だから融資してほしい」の一点張りでした。



だからといって融資はできない


 話を聞く限り店主の言っていることに嘘はないようでしたが、さりとて信用保証を承諾するには決め手に欠けます。当店は、ここ数年で借入を大きく増やしていたからです。そこを聞くと「営業を続けていると必要資金は増えるだろう。当たり前ではないか」との答えでした。「そうだ!決算書レベルでも利益があがる年もあるのがだから、資金を提供して事業を継続させてあげるのが金融機関の役割ではないのか?」そう言われる方もいるかもしれません。


 しかし私はそうは思いません。不足資金の補てんを借入に頼り残高がどんどん積み重なっていくと、近いうちに借金返済のために借金せざるを得なくなり、そのまま破綻することが目に見えているからです。適切な利益が確保できる価格で販売していれば、こんなに資金が必要になる訳がありません。どこかに資金流出しているはずです。それを突き止めるのが先決です。


 そういえば、この雑貨店は白色申告で貸借対照表を作成していないことに気がつきました。そこがポイントかもしれないと思い「このところ在庫が溜まっていませんか?」とお聞きすると、「在庫は溜まっていないが、売らない商品は自宅に保管してある。客間に入りきれなくなったので、庭に倉庫を立てようかと計画しているところだ」とのこと。「売らない商品とは何ですか?」と突っ込んで聞いたことで、真相が見えてきました。


 この雑貨店は、人気商品を確実に、かつ「割安に」仕入れるために、別の商品と抱き合わせで仕入れていました。人気商品だけだと原価は7割になりますが、抱き合わせで購入すると粗利は6割になるとのこと。「なかなか商売が上手いではないか」と思いましたが、実際にはそうではなかったのです。抱き合わせで仕入れたのは不人気商品で、ほとんど売れていなかったそうです。不人気商品も収支トントン程度にでも売れていれば、人気商品では原価率を抑えて高い利益が得られますが、不人気商品はほとんど売れておらず、これを人気商品の原価に含めて考えると8割以上にも及ぶレベルになっていました。これでは儲けが出るはずはありません。



 薄利多売は経理が分かってこそ成り立つ 

 「薄利多売」という言葉があります。便利なモノ・個性的な商品、魅力的なサービスが溢れるこの時代、ほとんどの事業者に薄利多売が求められていると言っても過言ではないでしょう。一方で、薄利多売は綿密な計算の上にこそ成り立ちます。お客様には魅力的に見え、自分も利益が取れる、そういう価格はピンポイントにしか存在しません。


 こういうピンポイントな価格設定ができるのは「経理感覚」あってこそです。経営感覚がないのに薄利多売の価格設定をすると、このケースの経営者のように痛い目に会う可能性があります。皆さんも是非「経理感覚」を身につけた経営者になるよう、常に意識して頂きたいと感じています。




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本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。また、コラム(本欄)ではコンパクトにまとめたStrateCutionsからのご提案についても、各項目をしっかりとご説明しています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。


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プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。

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