会社千夜一夜

第48回

「褒める」はモチベート策になるか?

落藤 伸夫 2019年12月16日
 



そろそろクリスマスのカウントダウンが始まりました。会社によっては「誰でも5時から男・女(少し古いですかね)」になっている状況ではないでしょうか?筆者が懇意にしている企業でも、普段は社長をトップとしてキリッとした雰囲気が社内文化として定着しているものの、やはりこの時期になると少し緩んだ雰囲気が職場に漂った感じです。いつもだったら「気を引き締めよう!」と言えば通じていたのに、今は「何それ?!」と心の中では思っているかもしれません。


「こういう時は従業員を刺激しないよう、褒めた方が良いのだろうか?期待によるモチベートに似ているし。」管理職の皆さんから、そのような意見を聞くことがありますが、筆者としては「止めた方が良いでしょう」と答えています。今日は、褒めることと期待によるモチベートの違いについて、考えてみます。



「叱る」のアンチテーゼとしての「褒める」

期待によるモチベートについてご説明すると、多くの方が「ああ、今流行の『褒める』ことだね」と仰います。「褒める」は部下育成から子育てまで、一つのキーワードになっているように感じられます。


「褒める」が、恐怖によるモチベートの代表格である「叱る」の反対語であることに、異論はありません。恐怖によるモチベートは「ルールの穴を突いて得点を稼ぐ、見つからなければルール違反も厭わない」という「ゲームズマンシップ」を引き起こしがちです。時にはモチベーションをかき立てることに完全に失敗し、萎縮や落胆など望んでいたのとは全く逆の作用を引き起こす場合もあります。また、時には会社を倒産させるほどのダメージを与える「死に至る病」となる可能性もあります。


そう考えると、恐怖によるモチベートのアンチテーゼを求める気持ちは非常によくわかります。「叱るの反対は、褒めるだろう」と、頼りたくなるのも不思議ではありません。また、巷の書店でリーダーシップ関係の書籍を見てみると「褒める」をテーマにした本は少なくありません。叱ることをはじめとした「恐怖によるモチベート」で疲弊している従業員が多く、これが組織の低生産性であったり、職員の退職、新規募集の困難さなどに繋がっていることを考えると、「褒めることで現状を打開したい」という気持ちになるのも、もっともです。従業員の方から「私は褒められると伸びるタイプです!」とアピールされる場合も、あるようです。



「褒める」は「叱る」の代わりとなるか

一方で、企業マネジメントの場面では「褒める」が「叱る」の代りとしてなるかについて、考える必要があると思われます。「どういう意味だ?」冒頭の例で考えてみましょう。年末までに終わらせなければならない仕事が残っているのに、職場のみなさんが年末イベントの話に夢中になり、手についていないと感じられた時です。「何を浮ついたことを言っているのだ!そんなことではボーナスを返上してもらうぞ」という恐怖のモチベートでは、思うような効果は得られないでしょう。しかし「みんなには今まで、本当に頑張ってもらったな。私は嬉しいよ」という褒める言葉から始めたら、思うような効果が得られるのでしょうか?それも、上手くいきそうには思えませんね。


どうして褒めることが動機付けとして機能しないのか?最近に流行している偉い心理学者(アドラー)もしっかりと説明してくれていますが、ここは筆者の実感をお話しさせてもらいましょう。筆者は、「褒められた経験」は受け手にとっては「ゴールに到達した。その出来栄えが満足できるものなので報酬をもらった。次の要求はないはず」と解釈されると考えています。このため、一度、褒めた後に「ところで、なんだが、もう少し頑張って欲しいのだ」と言うと、相手は裏切られた気持ちになります。そのようなことが何度も続くと、褒め言葉はゴールの宣言でも報酬でもない、次なる要求のためのただの枕詞と解釈されるようになります。これは裏を返せば、その言葉を発する人を「嘘つきだ」とみなしているという意味でもあります。


またもう一つ、「褒める」が「叱る」のアンチテーゼであるがゆえに「ゲームズマンシップ」が生じる可能性も指摘できます。叱られることによる恐怖と、褒められることによる快楽は裏返しなので、恐怖の場合には「何がなんでも逃げる」ために、そして快楽の場合には「何がなんでも手に入れる」ために、ゲームズマンシップが生じてしまうのです。



「褒める」ではなく「期待」を動機付けとする

「でも、褒められるとまた次も褒められるよう頑張る心理が働くと、どこかに書いていなかったか?」はい、その記憶に間違いはないと思います。但しそれが機能するのは、相手と合意の上で新たなプロセスが始まった場合でしょう。「今期は満足な成績をあげたので社長賞をもらった。来年も社長賞を貰えるよう頑張ろう」との言葉は、次期への動機付けになると思います。一方、今期ゴール目前で「みんな頑張ったな。その頑張りだけは褒めてやりたい」と言うと、そこで終わってしまいます。


「では今期の残りに頑張って欲しい時には、どうすれば良いのか?」そこで活用できるのが「期待によるモチベート」です。「それが『褒める』とは違うことは分かった。そして、言葉から何となく分かる部分もある。でも、奥が深いのだろう。そこのところを聞いてみたい。」はい、次回に掘り下げて考えてみましょう。是非、期待によるモチベートの使い手になって下さい。




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なお、冒頭の写真は写真ACからacworksさんご提供によるものです。acworksさん、どうもありがとうございました。


 
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


HP:StrateCutions

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