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会社千夜一夜

第19回

目指せ!新ビジネスモデル

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 先週から10月となりました。4月を年度始まりとする企業にとっては、これで下半期に入ります。年度末に良い結果を残せるように、これからもスパートをかけていきましょう。


ANAのチャレンジ

 最近、注目した記事があります。10月1日のFuji Sankei Business i トップ記事は「ドローン物流 ANAのやる気」でした。国土交通省と環境省が連携募集した「ドローン(小型無人機)物流」実証実験の事業者にANAホールディングスが選ばれたそうです。ANAは福岡市とドローンメーカーとの協議会を設立し、2020年代の実用化を目指してドローンを利用した離島への「空中物流」の実証実験を年内にも始めるそうです。 


 今回、この記事に注目したのは、ANAがドローンによる物流に、果敢にもチャレンジしたからです。ANAが運行している飛行機とドローンの関係は、陸上なら自動車とラジコン・カーに当たります。自動車運転のプロだからといって、ラジコン・カーを上手く運伝できると思う人はいないでしょう。ですからANAがドローンの運行について「今までの業務とは似ても似つかない。自分には関係ない」と判断したとしても不思議ではありません。でも、ANAは乗り込んで行きました。


 ではなぜANAはチャレンジしたのか?これが一つのイノベーションとなると考えたからでしょう。「ドローンを飛ばすことが、イノベーションになるのか?」なると思います。素晴らしいイノベーションです。それを考えてみることで、私たちもANAに見習ってイノベーションできるかもしれません。 



共通点・近接性によるシナジー

 ANAがドローン事業に踏み込んでいった一つの要因に「類似性・共通性」があると思われます。ANAはこれまで民間航空機運用業者として、気象予報など「空を飛ぶ」ことに関連するさまざまな知識・ノウハウを積み重ねてきたでしょう。上空を飛ぶ飛行機と低空を飛ぶドローンとでは完全に一緒ではないと思いますが、これらの知識・ノウハウは活用できるでしょう。


 一方でドローン運行により得られるメリットもありそうです。低空に関する知識・ノウハウを積むことができます。ANAはこれまで上空を飛ぶことがメインで、低空への関心は薄かったかもしれません。しかしドローンの運行で、低空に関する知識・ノウハウを格段に集積できるでしょう。両者をシナジーさせてバードストライクなどの問題に活用できるかもしれません。



新市場(ロングテール)への進出

 ドローンによる離島物流はANAにとって「ロングテール」進出という意味合いを持ちます。通常のビジネスでは、同一(類似)需要が大量に存在する市場をターゲットにすると利益を極大化できます。ANAにとっては、国内なら「羽田・大阪間」ドル箱路線でしょう。需要が小さいとコストのかからない小型機で対応しますが、一定を下回ると対応できなくなります。


 このような状況下、IT技術や社会インフラの発達により、一方でコストを劇的に切り下げ、一方で市場認識を変えることが可能になりました。代表例はAmazonで、街中の書店なら年に数冊売れる書籍は在庫できませんでしたが、地価の安い郊外の配送センターを置き、インターネットを使って全国から注文を受け、格安の宅配便で配送することでビジネスを成立させ、利益が得られるようになりました。離島への「空中物流」も、イノベーティブなビジネスモデルになり得るのです。 



プラットフォームによるシナジー

 「それにしても、大型機で大量の乗客を遠隔地に運ぶ従来型ビジネスを行うANAが、小ロットの小さな荷物を離島に運ぶ意義があるのだろうか?」あると思います。大ありです。  飛行機で人貨を運ぶというビジネスは、ただ単に飛行機を飛ばせば良いというビジネスではありません。安全・確実・経済的に運行したり、搭乗・輸送したい人貨を募集し管理するために莫大なインフラが必要です。このインフラをプラットフォームとして「航空機輸送ビジネス」が成り立っています。


 一方で、ドローンビジネスでもプラットフォームが必要になります。「類似性・共通性によるシナジー」でお話ししたように共通点もありますが、「新市場(ロングテール)への進出」でお話ししたように全く異なる条件や要望に応えるプラットフォームも必要になります。そのような異質なプラットフォームが連結された形でANAという会社の中に形成される訳です。


 異質なプラットフォームの結合は、現在、イノベーション創造の代表的手法の一つです。先ほど挙げたAmazonは、書籍販売とインターネット通販という2つのプラットフォームを結合させて成功しました。顧客に「書籍を在宅で受け取れる」というメリットを提供しただけでなく、出版元に「今まで売れなかった書籍を売る」という他にないメリットを提供したのです。


 同様のシナジーを、旅客機輸送プラットフォームとドローン輸送プラットフォームを結合させるANAも生み出せる可能性があります。イノベーションを産む礎を築いたと言えるでしょう。今後に期待し、注目したいと思います。 




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、コンサルタントの知恵を皆さんの会社でも活用してみてください。



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プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


Webサイト:StrateCutions

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