会社千夜一夜

第43回

理解力低下の破壊力

落藤 伸夫 2019年10月21日
 


「最近、コミュニケーションが取れなくなってきたなあ」と思われることはないでしょうか?「確かにね。昔と違って今は情報が豊富なので、同じ土台で話すことができないことが原因だろう。昭和の頃は男性なら野球、女性なら歌謡曲を話題に出せば誰とも会話を始めることができ、仕事の話に繋げることができた。しかし今や同世代でも見る番組が違い、好きなアーティストが違うので会話が成り立たない。世代を超えたコミュニケーションなんて成り立つ訳がない。」そういう声も、聞こえてきます。おっしゃる通りなのですが、もしかしたら別の要素が隠れているかもしれません。理解力の低下が原因かもしれないのです。今回は、前回に例示したある会社の会議をもとに、理解力低下が職場にどんな影響を及ぼすか、考えてみます。 



会議でのすれ違いは何が原因か

前回、ある会社の会議についてレポートしました。営業部長を集めた進捗・業績確認会議なのですが、社長からの課題が部下(といっても部長です)に届かないのです。「報告書の『業績が目標を下回った場合の要因分析』欄には、先月に何を実行したかとその首尾に限らず、実績が目標を下回ってしまった理由について余すところなく記載してほしい。」という言葉が届きません。何度言っても、行ったことの首尾報告なのです。「せめて、『計画に含めながら実行できなかったことも記載して、それができなかったことによる影響について』も報告してほしい」と言っても、全く聞き入れられません。


最初は、彼らは社長に反抗しているのかと疑いましたが、そうではないようです。会議の場でも、終わっても、社長へ敵愾心を燃やしている気配はなく、逆にレスペクトしている気持ちが伺えました。社長が高すぎる目標を提示するのでメンタルブロックが働いているのかとも疑いましたが、それとも違うようです。そもそも目標は、前年度末に各営業部長自身からの提示額をベースに調整を加えて作成したもので、納得を得たものです。期の半ばを迎えて実績が下振れしてしまった部も少なくありませんが、部長たちと社長のすれ違いは年度当初から発生していました。メンタルブロックが原因とも考えられません。


以上のように考えると、このすれ違いは部長たちが社長のオーダーを理解していないと解釈するのが適当なようです。それは同時に、会議や報告書の目的が何なのか、それを行うことによって何を実現しようとしているのかについても理解していないことを意味しています。各部が売上目標を達成できるよう知恵を出し合うための会議なのに、その目的を理解していないので、自己正当化の時間になってしまっているのです。



社長と部長の断絶

部長たちの理解力のなさは、何を生み出しているか?最大・最悪なのは「社長と部長の断絶」ではないかと思います。部長たちが自分の要望に対応してくれないのを見て、社長は当初、何度も何度も自分の要求を伝えていました。そんなに短気な人ではないのですが、段々と声のトーンが高くなってしまったのも事実です。すると部長は委縮してしまいますから、社長も引かざるを得ない。社長には不満がたまり、部長には変な安ど感が漂うという構図になってしまいました。こうなると、社長と部長の間に健全なコミュニケーションは成り立ちません。


社長と部長が断絶すると、社長からの想いが現場にまで上手く伝わらなくなります。どんな良い想いを込められた制度・措置であっても、その想いが部長に、そして現場で働いている人々に浸透することはありません。これは、働き方改革への対応としていろいろな人事的制度が作られ、措置がなされている今では、とても不都合な現象だと思われます。現場が「新しい制度・措置の目的は何だろう?会社の都合優先なのか?私たちのことを配慮してのことなのか?」と疑心暗鬼になっているときに、きちんと説明がなされないからです。現状は目立った悪影響は出ていませんが、今後が不安になります。



会社の業績

そして不況の気配漂う今に不安なのは、会社の業績です。もともと今年に入ったあたりから「あれ?景気は良いと言われているが、設備投資や貿易収支などを見るとそれほどではないのではないか?」という声が聞こえていましたが、消費税が増税されたことで不景気に向かって加速している感があります。このような時期に、営業部門がしっかりと業績を出せる体制を作りあげておけるかどうかによって会社の今後が大きく影響を受けますが、今の状態ではあまり大きな期待は持てません。せっかくの営業部長会議の意義が薄れ、PDCAサイクルが上手く回っていないからです。その兆候は、既に出ています。


「不景気になってお尻に火が付けば、みんな真剣に取り組むのではないか?」確かに、そのような期待はあります。一方でお尻に火が付いた時には冷静な議論ができず、ますます混乱が深まる可能性もあります。筆者が実際に遭遇した現場では、後者の事例の方が多かったようにも感じられます。


では、どうすれば良いのか?この場合の方向性としては、部長たちに理解力を改善してもらうしかありません。但しそれは、部長だけの問題ではなく、社長にも他方の当事者として取り組んでもらう必要があります。なぜそう言えるのか?理解力の問題は、実はコミュニケーションの問題が根底にあることが多いからです。来週、この問題について検討することにしましょう。




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なお、冒頭の写真は写真ACからbBearさんご提供によるものです。

bBearさん、どうもありがとうございました。


 
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


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