これまで2回連続で、現在の人材難を乗り越える方法を人材育成アプローチから考えてきました。「仕事の穴を埋めること」もしくは「改善を行うこと」は現在のルールを破ることになる場合もあるため、人材育成の前に環境整備、つまり理念経営と、これにもとづいた仕事と人のマネジメントが必要になります。
環境整備に着手したら、職場で働く人々にも、研修などの教育・訓練を受け入れる素地ができてくるでしょう。しかし研修も、何でも良いとは限りません。理念経営や、仕事と人のマネジメントと矛盾するものは百害あって一利ないからです。では、どのような研修がふさわしいのでしょうか。
座学では染み込まない
「今まで何度も『仕事の穴を埋めろ』とか『改善を目指せ』という趣旨の研修を行なってきたが、実践されたことはない。」そのような声を、多く聞きます。その原因は何でしょうか?従業員の資質が足りないのでしょうか?反抗的だからなのでしょうか?筆者もサラリーマン時代に、そのような研修を多数受講しましたが、やはり実践できませんでした。研修で「どうすれば良いのか、分からなかったから」というのが実感です。
「そんな、仕事で協力したり、改善したりすることについて、その大切さや方法を教わっただろうに。」はい、教わりました。理論とケースの両面から教わったと記憶しています。「それで十分ではないか。」しかし、自分が属する職場で、直面している問題について、自分が何をすべきかは教わりませんでした。「それは個別ケースだからな。『自分で考えろ』という趣旨だろう。」たぶん、そうなのだと思います。
このような座学は、自動車運転における「理論学習」に該当すると思われます。安全のため速度遵守や一時停止などが必要なことは、教科書で分かります。それを破ったら重大な事故に繋がりかねないことも、ケースで学ぶことができます。しかし、周囲の車が全部速度超過している時に、自分は遵守する術は分かりません。それが座学の限界なのかもしれません。
ケースワークでは「関係ない」
「最近の研修では想定ケースを使ったワークが多用されている。職場でよくありがちな問題に遭遇したとして、どう考え、言動するかを検討する訳だ。それ体験すれば、職場で実践できるのではないか。」確かに、研修におけるワークはそのような効果を狙ってのことだと思います。実際に、その検討を活用して成果を出した人もいるとは思われます。
しかし過信は禁物だと思われます。多くの受講者が「ワークは、しょせん『他人事』だ」と感想を述べています。「職場でありがちな問題」といっても、想定されたケースと全く同じ問題に遭遇していることはほとんどありません。加えて、仮に同様の問題であっても、参加者各人の職場環境や役割、目指すべき方向性が違えば、対応は異なるはずです。このような状況でケースワークを行っても「しょせんこれは想定のケース、自分とは関係ない」と結論付けられることが多いのです。
自分の問題・課題解決を計画させる
「では、どのような研修が有効なのだろうか?参加者各人が『自分ごと』として取り組める研修とは。」それは、参加者各人がリアルに遭遇している問題への対処を目的とした研修です。自分の問題・課題解決を計画させるのです。「しかし計画には『計画倒れ』という言葉があるように、それをすれば物ごとが成功するとは限らない。」はい、仰る通りです。一方で、計画しない企てが成功したことはありません。ビジネスの世界、それも複数の人々が力を合わせている会社組織の中では特にそうです。適切な計画を立てることが成功への一番の道筋です。
「計画の有用性は、分かった。しかし、参加者各人の問題・課題は別々だろう。それを集合研修で教えられるだろうか?それはオーダーメードで考える、例えばコンサルティングで対応するものではないか?」ここは一工夫が必要なところです。
解決すべき問題・課題は別々でも、対処方法まで異なる訳ではありません。例えば『仕事の穴を埋める職場を作る』場合を考えてみましょう。舞台がパン屋だった時、そこには製造、店頭そして事務の仕事に携わる働き手たちがいます。各々の職場で「仕事の穴を埋める職場を作る」マネジメントが完全に異なるのかというと、そうではありません。職場責任者が発揮すべきなのはリーダーシップであり、働き手たちをその気にさせるコミュニケーションでしょう。この部分は、座学で伝えることができます。個人的よりもグループで学んだ方が、受講者としての理解や納得が深まるかもしれません。
一方で、問題・課題を特定して解決策を模索し、方向性が出たらそれを実現するように計画するのは、個別対応が必要です。舞台がパン屋なら、製造、店頭、事務を一緒にする訳にはいきません。個別に考える必要があります。受講生各人が直面する問題・課題に、それなりの時間をかけて取り組むのです。
こう考えると人材難を乗り越える人材教育は、集合研修と個人指導を組み合わせたハイブリッドなプログラムである必要があることがわかります。座学と、受講者が実際に手を動かし直面する問題・課題に解決に向けた計画書を作成するのです。
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