会社千夜一夜

第42回

こんな会議になっていませんか?

落藤 伸夫 2019年10月15日
 


 前回「AI vs. 教科書が読めない子どもたち (著者:新井紀子さん)」を読んで、「この指摘は、学校だけでなく会社でも、真摯に受け止めなければならない」と感じた次第をお伝えしました。以前に「AIによって人間の仕事がなくなる」という研究が発表されましたが、新井さんの本では「コンピューターの理解力からすると、人間を追い越してしまう事態は当分、起きない」と結論づけられていました。では安泰なのかというと、そうではなさそうです。逆に人間の方が、理解力を落としてしまっているのです。新井さんの本では、子供を対象にした調査結果が丹念に報告されましたが、同様の現象は会社でも起きていると考えられることを、前回記事でご説明しました。会社で働く人々にどんな現象が起きているのか?今回は会議を例に考え、少し踏み込んだ検討を加えたいと思います。 



ある会社の営業本部長会議

 ある専門商社(従業員数80人)の営業本部長会議に出席した時のことです。成熟段階にある商品をBtoB販売するこの会社では、毎月、社長をトップに各地営業本部長が集まって前月速報値の検討会議を実施しています。PDCAを仕組み化してきっちりと回す体制を作っていることは、とても素晴らしいと思います。


 会議は、各本部長が順番に、自ら記載した報告書をベースに発表をし、それをもとに社長以下の経営陣、同僚の各地区営業本部長が質疑応答しながら進んでいきます。報告書は4段表の形式をとっており、右端の段は先月の目標とアクションプラン、左端の段は各本部の業績(売上、粗利益、各本部経費を控除した営業利益(1)、本部・配送所などの経費を控除した営業利益(2)など)が並んでいます。中央左欄は業績が目標を下回った場合の要因分析、中央右欄は要因分析をもとにしたフォロー策(修正アクションプラン)です。各本部長の持ち時間は30分で、前半は各本部長の発表、後半は質疑応答です。各本部長は報告書をもとに、その内容を深掘りする形で説明してゆきます。


 社長から再々・強いお達しがあり、各部長は「業績が目標を下回った場合の要因分析」と「それをもとにしたフォロー策」に重点を置いて話します。要因分析パートで話される内容は、アクションプランに関する具体的な実施内容であることが多いようです。この会社は全従業員80人、一つの営業本部は小さくて10~15人なので、営業行動に関する報告では、筆者や一部の取締役のように最近、着任したメンバー以外は、誰のことを言っているのかが分かるような、ある意味で生々しい話を織り交ぜながら検討が進んでいきます。一方でフォロー策は、「先月にできなかったことをやり遂げる」とシンプルな感じです。



意味は捉えられているか?

 これまでのご説明について、「そうだそうだ。我が社もそんな感じで会議が進んでいる」と思われたなら、注意してください。これは「意味がわかっていない」典型例だと思います。


 問題は中央左欄「業績が目標を下回った場合の要因分析」に関する報告書への記載、そして説明です。各本部長はアクションプランの振り返りを記載し、それを実際に働いている人の顔や姿をありありと思い出せるほど詳細にわたって、細々と説明していました。筆者の感想では、取組について「上手くできたこと」に触れられていることが多く、失注理由は申し訳程度です。それも「ある大口取引先で、当社商品を必要とする工事が終了したため」などの、一見すると「それは外的要因だな、当社として手が出せずにいても、仕方がないな」と思ってしまう内容です。「要因分析」がこの調子なので、中央右欄「フォロー策」もパンチがありません。「先月に、できなかったことを重点的に実施していく」という程度の記載だったのです。こんな報告・発表を基にしたのでは、建設的な意見が出ようもありません。



意味に即して対応するよう要望しても・・・

 これら報告・質疑応答に不満を持つ社長は「みんな、この会議の目的を全く分かっていない」と不満を漏らしています。が、営業本部長たちは、社長がなぜ怒っているのか、分かっていないようです。このため筆者は、最初に、目標未達の要因分析をブラッシュアップしようと考えました。


 「中央左欄は、右欄記載のアクションプランの報告ではなく、左欄で目標達成できなかった部分の理由を記載してください。例えば『3,000万円の目標未達のうち、1,500万円は大口取引先で当社商品を必要とする工事が予想外に早く終了したため、1,000万円は工場欠品による納期のズレなので翌月に売上計上予定、500万円は台風のため不稼働日数が多く顧客先訪問件数が対目標20件少なかったため』などと具体的なものになるはずです。他にも地区別や商品別、取引先の業種別など適切な切り口を見つけて目標未達理由をあぶり出してください」と依頼しました。しかしそれ以降もしばらく、会議は改善しませんでした。


 この状況を笑える人は、とても幸せだと思います。筆者の実感からすると、かなり多くの企業で、この状況に極めて近い現象が度々、起きているはずです。なぜ、そんなことになるのか?冒頭で新井先生が「学生たちに意味の把握力が低下している」と指摘しているとお伝えしましたが、卒業した瞬間に学生が、意味の把握力を身に付けるとは思えません。とすると同じ現象が会社でも起きており、指示や会話の意味が分からない人たち同士がコミュニケーションしているものと推察されます。




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なお、冒頭の写真は写真ACからまぽさんご提供によるものです。

まぽさん、どうもありがとうございました。

 
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


HP:StrateCutions

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