会社千夜一夜

第27回

最も困難な人材開発から学ぶ

落藤 伸夫 2019年2月18日
 

 経営者や士業仲間で「喫緊ながらも困難なため、最も遅れている人材開発は誰を対象にした人材開発なのだろう?」を議論しました。いろいろ意見が出た中で、筆者にグサリと来たのは「後継者の人材開発」です。「二代目社長の育成だろう。しばらく会社のナンバー2をやらせておけば良いではないか」との声も出てきそうですが、それだけで上手く行っている例は、筆者や周囲が見知っている中には存在しませんでした。


 このような最も困難な人材開発を観察すると、人材開発の本質についても見えてくるところがあると思います。トライしてみましょう。



広範性

 後継者の人材開発が難しい理由の第1に「広範性」が挙げられるでしょう。経営者として身に付けておくべき知識やノウハウが広範に及ぶので、その学びが容易でないという事情です。このような問題把握のソリューションとして代表的なのが「MBAなど、高等ビジネス教育機関による教育」が挙げられます。確かに、首都圏の大学院でMBAコースを教える講師に話を聞くと、この問題のソリューションとしてMBAの門を叩く後継者候補も少なくないようです。


 一方で、MBAがなければ良い経営者になれないかというと、そうではないと思われます。「そうだろう。MBAコースで教えられる知識は、実は無駄なものが多いのだ」と受け取る方もいるかもしれませんが、筆者の意図は、その逆です。MBAで学ぶ知識だけで会社が経営できる訳ではありません。そこで教えられる事項以外にも学び習得すべき事項は、実は無数にあります。そちらへの対応力がしっかりと身に付けた経営者は、MBA教育を受けた経営者よりも「良い」経営者になれる可能性があります。



現場体験

 MBAでは学べない事項の一つに「現場体験」があります。MBA科目であるマーケティングや人事管理等に係る問題でさえ、現場では理論通りの反応や成果が得られない場合があります。そのような問題は、現場を積み重ねてノウハウ(暗黙知)を会得していくしかありません。この意味で「会社のナンバー2を実体験させる」のは適切な後継者教育の一つと言えそうです。



特殊性

 後継者の人材開発が難しい第3の理由として「特殊性」が挙げられると思います。企業が抱える問題・課題は各々がユニークなので、それぞれの対応策を全てMBAで学ぶのは不可能なのです。


 例えば同じ業種業態でも、ビジネスモデル(何を、誰に、どこから仕入れて、何をアピールして、どのように売るのか。誰のサポートを得るのか、キャッシュポイントは何か等)や経営環境(どこに立地して、どんな市場に、どんな競合企業に立ち向かいながら売るのか。商品やデリバリー、マネジメント等の発達度やトレンドはどうか等)が違えば、経営課題は異なり、対応方法も変わってきます。



組織依存性

 後継者の人材開発が難しい理由として「組織依存性」も挙げたいと思います。先ほど、各社のビジネスモデルや事業環境はユニークなので経営改題や対応方法も異なると申しました。仮にそれが全く同じだったとしても、組織が異なれば課題や対応方法が変わります。


 この状況を理解するため、駅前のハンバーガー店を例に考えてみましょう。この店の店長が変われば、もしくは従業員が変われば、課題や対応方法が変わる可能性があります。事業承継を考えている企業の場合、先代社長と後継社長の能力・キャラクター等の違いも課題や対応方法に影響を与える要素となります。




人材開発の方向性

 最も困難な人材開発として「後継者の人材開発」を簡単ながら分析しました。そこから、人材開発に係るどんな教訓が得られるでしょうか。1つ目は、既知の問題に既知の知識やノウハウで対応すること、つまりMBAや企業研修等での対応が出発点となることです。


 2番目は暗黙知を身に着ける実体験も考慮に含める必要性です。人材開発担当としては、経験だけでなく、意識的にPDCAを回すことも考慮したいところです。


 3番目はユニークな問題への対応を取込むことです。実は、ここが一番、日本の人材開発に不足していることだと感じています。一方、欧米で飛び抜けたパフォーマンスを上げている企業は、ここを最も重視しています。次回はこの点について、考えてみましょう。




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プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。

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