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会社千夜一夜

第21回

人材難を乗り越える人材育成の方法

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 先回、人材難を乗り越えるには人材育成という方法があることをお話ししました。人材育成は、「人材難の環境下、すばやく欠員を補充する」という問題解決には繋がらないかもしれませんが、「いつ、誰が会社を辞めてしまうのだろう。そうしたら業務はどうなってしまうのだろう」という不安を解消してくれる拠り所となる可能性があります。今回は、「穴を埋める人材育成」と「改善を目指す人材育成」を実現する方法について、考えてみましょう。



理念経営と、仕事と人のマネジメント

 「とはいうがな、従業員に『仕事の穴を埋めろ』とか『改善を目指せ』という趣旨の研修は何度も実施した。しかし、そのような研修に参加させてマネジャーの言動が変化し、現場が変わったなどということは起きたことがない。あまり効果がないのではないか」とお考えの社長さんもいることでしょう。現実に、そのような声は決して少なくありません。その理由を仔細に調べてみると、「環境整備をせずに『穴を埋めること』や『改善を目指すこと』を現場マネジャーに丸投げしている」ことが少なくないと気が付きました。


 「環境整備とは?」先回もお話しした通り『穴を埋めること』や『改善を目指すこと』は、ともすれば現在のルールを破ることになりかねません。そのため「ルールを提示して守らせる」ことでマネジメントしていたのでは、「穴を埋めること」や「改善を目指すこと」は実現しないのです。逆に、ルールがこれらの取組みを妨害します。それを避けるには、理念経営と、仕事と人のマネジメントに取り組まなければなりません。



理念経営


 「経営理念か。会社の理想を明文化するのは悪くはないが、夢ではメシは喰えないからな。」そう仰る社長さんも、多くいます。一方で「会社として究極に目指したい姿を見せることで会社が一丸となれた」などのお話を、よく聞きます。目先のことばかりではなく、長期間をかけて・恒常的に実現したい状況を表現しておくことで、社内の人々の心を一つにできるのです。


 経営理念の良さは、もう一つ、ルールの上位概念を提示できることです。社内ルールは、たぶんこれまでの経験を元にして作られた「知恵」です。しかし、それを教条化してしまったり、どんな時にも守らなければならない金科玉条にしてしまうと、先にも申した通り「穴を埋めること」や「改善を目指すこと」を禁止する効果を持つ可能性があります。これらを経営理念として提示することで、実現を目指すことができるのです。



仕事のマネジメント


 経営理念がなく「今の仕事をこなしさえすれば良い」という状況だと、仕事のマネジメントは「ルールを守る」ことに注目したものになっていたと考えられます。会社には「納期を守る」、「作業方法を守る」、「品質基準を守る」などの様々なルールがあり、これらを守れば業績が上がる、だからこれらが守られるようにするのがマネジメントだと考えてしまうのです。


 一方で、例えば「会社が一丸となってお客様の満足を実現しよう。このために何かトラブルがあっても相互補完できる体制を作り上げると共に、お客様の満足をもっと向上できるポイントを見つけて改善に意欲的に取り組むようにしよう」との経営理念を掲げたら、マネジャーは「ルール遵守の番人」ではなく、「理念実現に向けたプロモーター(促進者)」になります。


 「理念実現プロモーターは何をする人か?」その役割は単純ではありません。平時ならルールの番人で十分かもしれません。しかし、例えばお客様からのクレーム時には「誰がルールを破ったか?どんな罰を与えるか?」では済ませないでしょう。お客様へのフォローを行うと共に、クレーム発生の遠因を究明して解消に努めます。「一時的に担当者が離席したのが原因」と分かれば周囲がフォローする段取りを定め、「マニュアルに不備があった」なら改善に手を付けるでしょう。「経営理念の実現のためなら、ルールにないことまで創意工夫を凝らすのが仕事だ」を実践する「仕事のマネジメント」を行うのです。



人のマネジメント


 「今までルールを守ればよかったのを、これからは創意工夫してくれなんて言ったのでは、従業員はついてきてくれるかな?」それを行うのが「人のマネジメント」です。経営理念の実現のため創意工夫するようモチベートしていくのです。


 例えばある会社は、仲間を助けたり改善提案をするなどの取組みを朝礼などで発表したり、それらの行いを表彰するカードなどを壁に張り出すなどしています。ボーナスに反映できるかもしれません。また、中小企業では頻繁に行えることではありませんが、人材を昇格させる時に「ルールの番人として厳しかった人」ではなく「相互支援や改善に積極的だった人」を選ぶことによって、会社としての意識を浸透できます。



 人材難を乗り越える人材育成として「穴を埋めること」や「改善を目指すこと」を目指すなら、教育訓練だけでは実現しません。経営理念を掲げるとともに、仕事と人のマネジメントを変える必要があります。これらを一体的に行うことで「いつ人材が辞めるか、ビクビクすることがない。万が一欠員が出ても大事に至らない会社」を作ることができるのです。




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本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、コンサルタントの知恵を皆さんの会社でも活用してみてください。



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プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


Webサイト:StrateCutions

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