会社千夜一夜

第29回

カルサバ人材開発が企業をダメにする

落藤 伸夫 2019年3月25日
 

 2019年もあっという間に3月の下旬です。みなさんの会社でも、来年度に向けた人材開発計画が終盤を迎えている頃ではないでしょうか?年度内にトップの決裁を得るには、今がまさに書き入れ時、努力のしがいがある時だと思います。「いやいや、毎年やっている仕事に、そんなに気合を入れて取組む必要はない。去年の実績を踏まえ、アンケートを見ながら微修正してゆけば良いのだよ。」そういうお話を、イヤになる程、耳にしてきました(このコラムを購読してくれている皆さんの会社では、そんなことはないと信じていますが)。


 筆者は、無駄に仕事を増やしたいとは思いませんが、成果をあげるための努力を惜しむのはもったいないと思っています。特に計画を疎んじるのは危険です。計画策定でカルサバ(以前の職場で私が担当者の時、課長が得意げに教えてくれました。「何でも軽く捌く」という意味だそうです)すると、担当者は楽かもしれませんが、そのツケは会社が払うことになります。つまり、もっと適切な人材開発をしていたら会社はもっと繁栄して社員全体がその恩恵に与れるのに、それが得られないのです。このカルサバについて、今週はどんな現象が生じるのか、来週は何が問題なのかを考えていきたいと思います。



「前年度の焼き直し」

 カルサバ現象の端的な例は「前年度の焼き直し」です。先ほどのカルサバ課長も、焼き直しが得意でした。「仕事を割り当てられたら昨年度の決裁文書を引っ張り出してコピーを取る。そこに必要な加筆修正を加えて原案とする」が、彼が部下に教えた仕事の方法です。「人材開発は一貫性が必要、安易に方向転換してはいけない。前年度決裁文書を参照すると、これまでの方向性を自然に踏襲できる」と説明していました。一方で「前年度決裁文書は既に決裁を受けたものだから、今年も決裁を受けられるはずだ。参照しないのはアンチョコがあるのに見ないでテストを受けるようなものだ」とも言っていました。


 カルサバ課長の下では、昨年決裁文書の言葉を変えることさえご法度でした。多少なりとも書き換えると「なぜだ?」と突っ込まれ、「部長が書き換えを指示した」などの説明以外は受け入れません。そのため、昨年度の決裁文書をコピーして今年度の日時に置き換え、エージェントからパンフレットをもらって講師名が変わっていたら書き換えておく。万が一、昨年に実施した研修が存在しなかったら当該エージェントが開催する類似の研修に置き換えておく。これが部下が行う「焼き直し」仕事の手順でした。実際にカルサバ課長は、そのような案以外は受け取ろうとはしなかったのです。



「アンケートを元に修正」

 カルサバ現象がもう一ランクアップしたのが「前年度に実施した研修について提出されたアンケートを集計、それをもとに修正を加える」というものです。企業研修を行うと、ほぼ必ずアンケートを取っていることでしょう。それを集計して、満足度の高い研修は継続し、低い研修は差し替えるのです。このような方法で計画を立案する企業が少なからず存在しています。毎年、2割〜3割の研修を差し替えておくと「今年は仕事をしたなあ」という気持ちになれるという話もありました。



「エージェントに丸投げ」

 カルサバ現象で、最近に目立ってきたのは「エージェントへの丸投げ」です。これが蔓延するきっかけは、もしかしたらガバナンス上の要請によるものなのかもしれません。一定金額を超えて外部業者を活用する時には癒着回避のために入札で決定するよう経理部門から指示されることがきっかけであることが多いと感じられます。最初は自分たちが選定した研修を一件一件入札していたが、それでは人材開発部門も経理部門も大変なので特定テーマの研修は一社にまとめて委託するようになった、ならば専門業者に研修計画そのものも提案してもらう条件としようという経緯です。


 あまりにも手抜きのように感じましたが、それを問うと「専門家の知恵活用」という説明がありました。しかし筆者としては「業者との癒着防止」というもっともな目的であったのに、いつの間にか一方では「カルサバ」の言い訳になり、他方では委託先研修業者が限定されて「関係の過度な緊密化(時には癒着と言いたくなる場合も)」につながっているのは、皮肉としか言いようがないと感じています。



カルサバ人材開発がなぜ問題か

 「カルサバ人材開発について、それが良くないことは分かるのだが、突き詰めて『なぜ』を考えると答えが出ない。」はい、筆者も課長からカルサバ手順を教えられた当初は「それが賢い仕事手順か」と実行してしまいました。しかし、翌年に「これで良いのだろうか?」と感じるようになりました。


 カルサバ計画の弊害は「ある大事なプロセスが抜け落ちることが原因で、組織のパフォーマンスに蓋をされてしまう」ことではないかと思います。ある大事なプロセスとは、現在の企業人材についての的確な現状把握と、今後、どのような人材に育てていくかに関する真剣な議論を基にした方向性確認、そして現在に行なっている人材開発策が適切かに関する検証ではないかと思います。次回は、この問題について考えてみましょう。




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プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


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