会社千夜一夜

第30回

カルサバ人材開発計画が危険な理由

落藤 伸夫 2019年4月1日
 

 先号で、人材開発計画を立てるにあたり陥りがちな罠として「カルサバ」をご説明しました。本連載コラムを購読する読者には意図的に手を抜いている人はいないと思いますが、いくつかのパターンを見る中で「近いことをしていたかも」と思った方もいるかもしれません。そのような仕事の仕方をするようになった背景はいろいろあるはずで、一概に「それはダメだ」と言い切るつもりもありませんが、それがもしかしたら大変な結果に繋がる、すなわち担当者は楽ができるが会社が大きなツケを払わなければならない事態に陥る可能性があることについて、今回のコラムから読み取って頂ければと思っています。




成果の上限値を低めてしまう

 カルサバ計画の弊害の第1点は、それが「企業が刈り取るべき成果」に蓋をしてしまうことです。もっと高い、もっと状況に適した計画を立てて実行すれば、もっと豊かな成果を得られるはずなのに、それが得られなくしてしまうのです。


 これまでの書き振りをみて読者の中には「筆者はカルサバを蛇蝎のように嫌っているのだな」と思われた方もおられるかもしれませんが、実はそうではありません。実際、カルサバを適用したら早く正確にこなせたはずの仕事を「考えて」取り組んだおかげで、時間ばかりかかって間違いだらけの成果しか得られなかった経験もあります。典型例とは少々異なる課題でも、探せば前例があり、それに従った方が間違いもなくコンセンサスを得やすいということも多いのです。日々のパターン化された仕事は、カルサバで取り組んだ方が早くて正確にできます。ルーチンワークの場合には「成果の上限値」が決まっていて、それをどれだけ早く正確に実現するかが鍵と言えるでしょう。


 一方で、計画の場合には事情が少し異なります。計画には、予め決められた、もしくは往々にして収束してしまう「成果の上限値」はありません。上手く取り組めば大きな成果が期待できる計画(良い計画)が立てられ、下手に取り組めば小さな成果しか得られない計画(悪い計画)しか立てられません。この点で、カルサバは確実に「悪い計画」しか立てられない方法です。なぜなら、その成果は決して昨年に予定された成果を超えられないからです。カルサバの計画立案では、問題意識も、それへの対処方針も、そして個別具体策(多くの場合、採用する研修)も、昨年に立てた計画を超えることはありません。一方で、社内の状況は変化しているため昨年とは違った問題意識が求められるかもしれません。昨年には提示されなかった、昨年よりも効果的・効率的なソリューションや研修プログラムが存在するかもしれません。それが無視されるのです。



方向性や成果がぶれている可能性を無視する

 ここでもう一つ指摘しておきたいのは、昨年立てた計画に従って1年間にわたり業務を進めてきた現在、目指す方向性に今もしっかり向いているか、予定通りの進捗をしているかが、カルサバ計画ではチェックできないことです。方向性や成果がぶれている可能性を見逃してしまう可能性があるのです。これをA地点からB地点に向かう場合を例に考えてみましょう。B地点に着くために「3つめの交差点を右折し、2つめの交差点を左折して・・・の方向転換を9回繰り返す」というプランを立てたとします。計画は正しくとも、実行段階で手違いがあったら目的地に着きません。最初に右折したのが3つめの交差点ではなく4つめだったなどというミスは往々にして発生しがちですが、もし途中のチェックを省略するとリカバリーできず、全く見当はずれの場所に着くはずです。


 カルサバ計画では全く同様の状況に陥ります。「チェックは中期計画最終年(3〜5年後)にすれば良いのではないか?」それでは遅すぎます。現状把握を、計画立案や最終結果の確認目的に限定するのは勿体ないことです。現在の企業人材像を的確に把握して微調整しなければ、それを実践している競合企業に決して埋められない差をつけられる可能性があります。



人材像や開発策がブラッシュアップされない

 一方で、育てたい人間像についての真剣な議論も必要です。「それは中期計画立案時に検討したはずだが。」はい、その通りでしょう。しかし、開発計画に基づき研修を行ううちに育てたい人間像(理想の姿)についてブラッシュアップが必要となることは少なくありません。例えば「職場で創意工夫できる若手人材」を目標に研修を行なっても、マニュアルがない仕事はできないと立ち往生してしまうケースが多いとするなら、「上司とコミュニケーションしながら仕事できる人材」を目指すとブラッシュアップすることが必要なのかもしれません。


 このような修正を加えるとは、他方で、開発策についての検証と修正も必要になるということです。昨年度に引き続き「職場で創意工夫できる若手人材」研修を実施するのに加え「上司が若手人材とコミュニケーションして創造性を引き出し、方法論まで打ち合わせて承認を与えた後に取り組ませる」というOJTも実施する必要があるかもしれません。



 取組みを向上させる黄金律は「期待と成果を付き合わせて必要な改善を加える」ことです。カルサバ計画では、それはできません。一方で現状把握や育てたい人材像・方法論のブラッシュアップまで行う「手をかけた計画」では、それが可能です。成功している企業は例外なく、常時改善を実践しています。   



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プロフィール

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代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。

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