「後継者の人材開発」は、「広範性」、「現場体験の必要性」、「特殊性」、「組織依存性」などから「最も困難な人材育成」と言えそうです。企業の人材開発担当者も、この最も困難な人材開発から学ぶことができるでしょう。成果につながる取組みについて考えてみます。
現状分析をもとにした選択と集中
後継者人材の開発では、身に着けてもらいたい知識やノウハウが広範に渡ることがネックになります。MBAコースでの学びは一つの対応策になりそうですが、先代社長の高齢化が進んで2025年問題が叫ばれている状況下、その余裕のある企業は、多くはないでしょう。多額の費用が必要なことも障害となります。
とすると考えられるのは「選択と集中」です。筆者がそこで付け加えたいのは「適切な現状分析」が前提だということです。「なるほど、2代目社長の経歴や学歴等を鑑みるのだな。」それもありますが、企業の現状も大切です。会社に独立した経理部があり業務に活用できる管理会計指標が提供されているなら、会計は後回しにできるかもしれません。一方で、従業員が長く定着しない状況なら、人的資源管理こそ、優先して取り組むべき課題かもしれません。
ゴール設定の工夫
後継者人材の開発においては体系だった知識・ノウハウの会得ももちろんですが、「現場体験」も大切です。「頭でっかちではうまくいかないからな。それよりも現場で汗水垂らすことが大切だ。」そのような気持ち、還暦を前にした筆者には理解できますが、これから会社を引き継いで盛り上げていこうと考える2代目社長には理解しにくいかもしれません。にも関わらず無理強いすると「やはり事業承継はしたくない」と逃げ腰になってしまう可能性があります。
一方で、事業承継に成功した2代目社長自身が「現場体験が鍵だった」と話すことは少なくありません。では、どうすれば2代目社長の現場体験が成功するのか。成功例をつぶさに見るとポイントは目標設定にあるようです。成功例では現場体験そのものではなく、非成長部門・万年赤字商品の黒字化プロジェクトなどに従事させて「実際に経営をして、失敗体験と成功体験を積むこと」が目標であることが多いようです。
「実際に経営に携わって失敗や成功を体験する」目標がなぜ効果的なのでしょうか?筆者は、知識・ノウハウや体験が、この体験により2代目社長の中で相対化されるからだと思います。体系的知識・ノウハウや体験が目的ではなく、経営において成功を収めるため、失敗状態から脱却するための手段・方法と位置付けられるのです。これを目標としながら経営体験を積むことで、2代目社長は「失敗から脱却して成功するには勉強も、仕事の熟知・経験も、従業員達と苦楽を共にすることも、社外の社長仲間や専門家、行政、金融機関等とのネットワークも、全て大切だ。活用していこう」と気が付きます。この気付きが「学び」を単なるお勉強ではなく、成果を繋がる手段と変えるのです。
模範とコーチング
後継者の人材開発が難しい理由として「特殊性」や「組織依存性」が挙げられます。種々の研修を積極的に受講した2代目社長に話を聞くと、ここが一番、対処に困ったと言っていました。「そのような中、自社の特殊性・組織依存性にどう対処したのか?しているのか?」を問うと、ほとんどの2代目社長は「自分で工夫して対処するしかなかった」と言っています。
では、対処法はないのでしょうか?一部の2代目社長は意外なことを言っていました。「模範にできる社長を見つける。できれば、その社長からのコーチングを受ける」のです。そこから個別具体問題へのソリューションが得られるかと問うと、違うようです。模範社長を見て、特殊で組織に依存する問題は、結局は自分自身で対処するしかないことを思い知らせてくれる、そうやって「覚悟」が形成されるのが大切なのです。
人材開発の方向性
このコラムの読者に「人材開発の仕事は、例年と同じ研修を今年も開催すること」と考える人はいないと思いますが、さりとて「何をすれば一歩踏み出したことになるのか」で悩んでおられる方は多いと思います。この時「後継者の人材開発」から考えると効果的です。
第1は、対象者と職場・企業を現状把握した上で選択・集中することです。第2は、「学び」だけではなく「成果」や「覚悟の形成」も目標になり得ること、第3は、研修以外の多彩なツールを織り成して活用することです。「理屈はわかるが、どういうことなのかな?」3月以降、順次検討することとしましょう。
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